半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:2020年11月18日

新創業とともにマスターブランディング強化
湖池屋の付加価値戦略
プロジェクト・チーフ 北口知愛


 ポテトチップスといえばカルビー。湖池屋は、そのカルビーを追いかけ、「ポテトチップス」争いを長らく続けてきた。一方で、スナック菓子市場の伸び悩みで、商品のコモディティ化に悩まされた。

 その湖池屋が、ここ数年、「湖池屋プライドポテト」「PURE POTATOじゃがいも心地」などプレミアムポテトチップスブランドで好調だ。業界2位は変わらないが、湖池屋はカルビーへの追随、同じ土俵に立つことをきっぱり辞めている。業績は右肩上がりが続き、利益体質になってきた。いつ、どのように成長ベクトルの方針を変更し、独自のポジショニングに舵を切ったのか。


スナック菓子ブームとともに成長 商品クオリティの高さは小売店のお墨付き

 湖池屋は1953年に創業。1967年にポテトチップスの量産化にはじめて成功した老舗企業である。1984年に発売したカラムーチョのヒットで、激辛ブームの立役者となった。1990年前後にはスコーンやポリンキー、ドンタコスなどスナック菓子のヒット商品を連発し、おちゃめなCMも話題になった。

 じゃがいもは味にくせがなく、どんな味付けにも耐えられる。90年代以降はポテトチップスの味の多様化が進んだ。女子中高生の間でのポテトスナックブームもあり、さらに市場が拡大していった。その頃の小売店の湖池屋への評価は「売れ行きはカルビーに及ばないが、商品の味は一番良い」(1995年1月14日付 日経流通新聞)だった。当時から湖池屋の商品のクオリティの高さは、お墨付きだった。


成熟期から第二成長期へ 新創業とともにマスターブランド育成

 2000年代以降、スナック菓子のコモディティ化、低価格化が進んだ。少子高齢化や健康意識の高まりから、ジャンクフード敬遠という逆風もあり、スナック菓子市場は伸び悩んでいた。

 湖池屋も、フレーバーの多様化によるロングセラーブランド活性化の限界を迎えていた。2010年代にはもも味やショートケーキ味など、奇抜な味のポテトチップスを連発し、消費者を楽しませ、SNSで話題になった。しかし、それらが業績に大きく貢献することはなかった。売上高は業界1位のカルビーに遠く及ばなかった。

 そんな状況の中、湖池屋は2016年10月、複数あったコーポレートブランドを「湖池屋」に統一。経営体制を刷新、新生「湖池屋」として再スタートを切ることにした。家紋を意識した新しいコーポレートロゴの六角形には、これまでのコアバリューであった「親しみ」「安心」「楽しさ」に、新たに「本格」「健康」「社会貢献」が加わった。

 新創業にあたっては従業員に向けたインターナルブランディングに相当注力した。企業スローガンを、1970年代に放映していたCMから着想を得た「イケイケGOGO!」とし、チャレンジ精神やパイオニア精神の浸透を図った。社屋、社章、名刺から文房具に至るまで新たなコーポレートロゴを際立たせ、老舗企業としてのプライドを表現した(2019年8月21日付 宣伝会議)。

 さらに、新創業にあたり新たなマスターブランドを生み出した。それが湖池屋ブライドポテトだ(発売当時の正式名称は「KOIKEYA PRIDE POTATO」)。和牛やマツタケなど、日本独自のフレーバーを打ち出し、こだわりぬいたプレミアムブランドとして2017年に発売。年間売上20億円でヒットとされる菓子市場で、発売年に約40億円を達成した。

 しかしその後が続かなかった。脈絡なく「無添加」を訴求しはじめるなど基軸がぶれてしまい、パッケージや味の変更を繰り返すなど迷走した。

 2020年2月に基軸を見直して、再リニューアルを行った。そこには、「新生湖池屋を代表するブランドに育てたい」との強い思いがあった。頻繁に変更していたパッケージは、当初の白を基調としたデザインに戻し、英語表記で認知度が伸び悩んでいた商品名表記を「湖池屋プライドポテト」に改めた。味付けは濃いめの味に回帰。

 その一方で、新たに投入したフレーバー「芋まるごと 食塩不使用」は、素材の味を存分に引き出し、過去に失敗した「無添加」路線以上に健康を気にする層の取り込みに成功した。まさに新創業に伴いコアバリューとして新たに加わった「本格」「健康」を体現する商品だ。発売3ヶ月で売上20億円を達成。異例の復活ヒットとなった。


プレミアムブランドの重点育成を新生コーポレートブランドが下支え

 湖池屋は新創業後、「湖池屋プライドポテト」を中心に、プレミアムブランドの育成に注力、プレミアムブランドと定番品の割合は既に1:1だ。これが利益体質への転換に寄与している。たとえば、2018年9月にリニューアルした厚切りポテトチップス「PURE POTATOじゃがいも心地」は、本格的な素材感で食べごたえのあるポテトチップスを求める30代以上の女性にうけ、年間売上20億円以上のブランドに成長。2020年3月にリニューアルした濃厚系ポテトチップス「KOIKEYA STRONG」も好調となっている。

 価格競争で低迷し、高価格帯商品の開発に挑戦する企業は多い。しかし、その「プレミアム商品」がコーポレートアイデンティティとうまく一致せず、成功に結びつかないということもよくあることだ。「本格」「健康」「社会貢献」を掲げる新生湖池屋のコーポレートブランドは、湖池屋プライドポテトやじゃがいも心地などのプレミアムブランドを下支えできている。新創業後の軸を高付加価値品の拡大に置き、個々のプレミアムブランドのブランディングがうまくいかなくても、何度もリニューアルにチャレンジするという一貫性の大切さが学べる。


カルビーを見ない 付加価値型商品に重点を置くブランド体系

 2016年11月末、新創業から1ヶ月後の戦略説明会にて佐藤社長は「もう競合を見ない。まったく違うポジションをつくる」と強調。その言葉どおり、湖池屋のブランドポートフォリオは、カルビーと異なるポジショニングを実現しようとしている。

 カルビーは、自社の(世界的な)強みを「食感へのこだわり」「加工バリエーションとユニークなフレーバー」などとし、優れた加工技術を背景に「食感」を軸としてマルチブランディングを行っている。定番のポテトチップスから、固めのしっかりした食感が人気の「堅あげポテト」や、カルビー最薄をうたい、くしゃっとしたTHIN(新)食感を売りにする「シンポテト」などが代表的だ。「ポテトチップス」「堅あげポテト」「かっぱえびせん」などの大型ブランドはご当地限定フレーバーで大量のサブブランドを展開。さらに、「かっぱえびせん」「えだまりこ」といった素材による食感の違いでブランドエクステンションしている。多数のブランドで市場の隙間を埋めていくトップの戦略だ。


図表1.カルビーのブランド戦略
カルビーのブランド戦略

 湖池屋は、「湖池屋プライドポテト」をフラッグシップ商品とし、「プライドポテト」「じゃがいも心地」などのプレミアムブランド注力型のブランド体系を取りながら、「カラムーチョ」や「スコーン」など昔ながらの定番ブランドの再活性化を両立している。


図表2.湖池屋のブランド戦略
湖池屋のブランド戦略


ファンは確実についてきている 提供価値を更に鮮明化できるか今後に期待

 「湖池屋プライドポテト」リニューアル直前の2020年1月に実施した当社オリジナル消費者調査では、スナック菓子のブランド認知率の1~4位をカルビーが独占。湖池屋で一番認知率が高いのは、5位のカラムーチョだった。店頭接触や喫食経験をみても1位、2位をカルビーが独占しており、盤石の強さだ。

 しかし、買って食べたことがある人の今後意向をみると、2位に湖池屋のピュアポテト、5位に湖池屋ポテトチップス、6位に湖池屋プライドポテトがランクインしている。湖池屋の商品は確実にファンをつくり、リピーターにつなげていることがわかる。

 「湖池屋プライドポテト」はリニューアルに成功したが、その販売額は全社売上の1/10にも満たない。まだブランド育成の途上だ。消費者の今後喫食意向も、(リニューアル前の2020年1月時点では)積極的なマーケティング投資をしていない昔ながらのなじみブランド「湖池屋ポテトチップス」に負けている。今後、付加価値化路線をまっとうし、プライドポテトを真のマスターブランドに育て上げることができるのか、期待が高まっている。


湖池屋 プロフィール

  • 資本金 2,269百万円
  • 決算期 6月
  • 売上高 37,739百万円(2020年6月)
  • 代表取締役会長 小池孝、代表取締役社長 佐藤章
  • 従業員数 858人


特集:中堅企業の成長戦略


参照コンテンツ


業界の業績と戦略を比較分析する


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツ プレミアム会員サービス 戦略ケースの教科書Online


新着記事

2024.10.23

24年8月の「旅行業者取扱高」は19年比で68%に

2024.10.22

24年8月の「商業動態統計調査」は5ヶ月連続のプラス

2024.10.21

企業活動分析 エスビー食品24年3月期は営業利益44%増の増収減益へ

2024.10.21

企業活動分析 ハウス食品グループ本社の24年3月期は増収減益へ

2024.10.18

消費者調査データ 植物性ミルク(2024年10月版) 「キッコーマン 豆乳」全項目首位で抜群の強さ

2024.10.17

24年9月の「景気の現状判断」は7ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.10.17

24年9月の「景気の先行き判断」は再び50ポイント割れに

2024.10.16

24年7月の「現金給与総額」は31ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.10.15

企業活動分析 エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社 2024年3月期はインバウンド売上高が過去最高で増収大幅増益に

2024.10.15

企業活動分析 株式会社 高島屋24年2月期は円安による客単価や入店客数の増加で増収増益

2024.10.10

24年8月は「完全失業率」は改善、「有効求人倍率」は悪化

2024.10.09

24年8月の「消費支出」は4ヶ月連続のマイナスに

2024.10.09

24年8月の「家計収入」は4ヶ月連続のプラス

2024.10.08

企業活動分析 味の素の24年3月期は販売単価の上昇や為替の影響で過去最高益を更新

2024.10.07

MNEXT 価値の根拠は何か―欲望を充当するもの(要約版)

2024.10.07

企業活動分析 株式会社ニトリHD24年3月期は決算期変更の影響もあり減収減益

2024.10.04

消費者調査データ 紅茶飲料(2024年10月版) 首位「午後の紅茶」、「紅茶花伝」に水をあける

2024.10.03

24年9月の「乗用車販売台数」は2ヶ月ぶりのプラス

2024.10.02

24年8月の「新設住宅着工戸数」は4ヶ月連続のマイナス

2024.10.01

MNEXT 日本人消滅論の錯覚―世相批判の論理(2024年)

2024.09.30

企業活動分析 しまむらの24年2月期は全事業で既存店1店舗当たりの売上高が上昇し増収増益へ

2024.09.30

企業活動分析 ファーストリテイリング23年8月期は売上・営業利益ともに3期連続で過去最高を達成

週間アクセスランキング

1位 2024.10.07

MNEXT 価値の根拠は何か―欲望を充当するもの(要約版)

2位 2017.09.19

MNEXT 眼のつけどころ なぜ日本の若者はインスタに走り、世界の若者はタトゥーを入れるのか?

3位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

4位 2024.04.05

消費者調査データ ノンアルコール飲料(2024年4月版) 首位は「ドライゼロ」、追う「オールフリー」「のんある気分」

5位 2024.02.02

成長市場を探せ コロナ禍乗り越え再び拡大するチョコレート市場(2024年)

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area