中堅・中小企業は営業力が脆弱である。それがコロナ禍で露呈した。第一に、需要(得意先・顧客)の蒸発である。
多くの小売業や飲食店が休業を余儀なくされ、営業再開後も"3密"を避けるために十分な集約ができない。特に飲食店などを得意先にする企業は、現在も大打撃を受けている。
第二は、商談機会の減少である。
リアルな訪問商談は禁止され、オンライン商談が当たり前になった。大企業であれば、そうした対応により商談も進むが、中堅企業はそうではない。オンラインの商談から弾かれる。バイヤーも忙しく、影響力も小さいため、オンライン商談には招待してくれない。気が利いて、さらに小回りを武器とした中堅企業の営業スタイルは通用しなくなったのである。
伝統的営業スタイルが通用しなくなった現在、どのような営業スタイルが必要なのだろうか。
新しい営業スタイルを試みた30の事例を分析すると、11の営業スタイルに分類・整理できた。結果をみると、オンライン営業が26事例、オフライン営業が4事例と圧倒的にオンラインが多かった。
成功と成果が出ていない事例から分かったことは、以下のとおりだ(図表1)。
図表1.中堅企業の営業事例30から整理できた11の営業スタイル
オフラインでの営業は難しい
四つの事例は、新販路開拓や新ターゲット開拓に取り組んでいるが、現在のところ成果が出ていない。
いずれも新しい顧客を求める試みであるが、中堅企業は知名度もなく、伝統的な営業スタイルでは成功しないということである。また、オンラインでも、VR見学やオンライン展示会では成果が出ていない。
成果がでているのは、オンライン営業七つのスタイルである。
1.遠隔接客
12事例ともっとも多く取り組まれていたのが、遠隔接客だ。
今治タオルのイケウチオーガニックは、「Zoom」を利用したオンライン接客を始めた。これを利用した顧客全員がタオルの購入を決め、平均金額は通常来店時の2.1倍に達した。
利用客がSNSに書き込んだ熱量の高い体験談が、新しい利用客を生むという好循環を呼んでいる。
高級焼き肉の格之進は、ECサイトで「おうちで格之進」を開設。焼肉セットのEC販売は、2020年2月と比較して3月が6倍、4月が21倍にまでなったという。購入者との「オンライン肉会」で、美味しい肉の焼き方を紹介したのが好評だそうだ。
2.ライブコマース
ライブコマースは数年前から注目を浴びている売り方だが、そのプラットフォームは多くが展開中止に追い込まれている。
今回取り上げた事例の特徴はプラットフォームには参加せず、独自の展開をして成果が出たものだ。
アパレルのDURASは、今年からライブコマースを始めた。45分間で実店舗の1日分の売上を超えることもあるという。
ビームスも3月下旬、初めて自社サイト内ライブコマースでメンズウエアを販売したところ、6,136人が視聴し、1時間で100万円弱を売り上げた。
3.応援消費訴求
中堅企業にとって、マクアケやキャンプファイヤといったクラウンドファウンディングを活用するのも新しいスタイルだ。期間は限られているとはいえ、その後の自社EC訪問へのきっかけとなる。
今治タオルメーカーのハートウエルは、主要得意先の百貨店休業で窮地に立たされた。そこで、今治タオルで製造したマスクをマクアケに出品したところ、経営状況の苦しさを応援するサポーターのおかげで、予約開始3日で当初目標40万円の10倍以上を達成。終了した現在では、約17,000人のサポーターの応援を受け、1億2,000万円強の応援購入額となった。
4.商談プラットフォーム
しあわせ商談サイトNAGANOは、県内生産者とバイヤーをマッチングするサイトとして開設された。
利用料が無料であることに加え、新型コロナ感染拡大もあり、2ヶ月あまりで売り手の登録者は約430、買い手は約200まで増えた。出品数は5月末現在で約1,020アイテムと3月末と比較して8割増えた。
5.ダイレクト販路開拓
自社ECサイトは、「Shopify(ショッピファイ)」の登場で、手軽に低コストで出店できるようになった。
「俺の株式会社」は、この仕組みを利用して、コロナ禍の危機を乗り越えることができた。「俺のBakely&Cafe松屋銀座裏」の限定商品「クロワッサン食パン」をECサイトで販売したところ、前評判もあり即時完売となった。その後もアクセスが集中し、完売が続いた。
6.新ターゲット開拓
業務用が中心顧客だった青果卸の「まつの」は、売上急減に直面し、個人向けの販売に乗り出した。野菜の詰め合わせセット「農家お助け宅配」は、キャベツやトマトなど野菜10品と果物3品がセットになったもので1箱2,800円。
やや高めの価格設定だったが、3密を避けて買える利便性から2ヶ月で1万件を受注した。
7.エリア対応
アパレルのデイトナインターナショナルは3月下旬の休店から、ECに在庫をシフトし、4月は売上が70%増、5月は115%増と好調だった。
その背景には、エリア対応がある。地域によって新型コロナの状況も変わっており、徹底的に地域事情を調べ、エリア別の対応を図った。
以上、成功している中堅企業の営業スタイルを紹介してきた。
これらに共通していることは、売れる仕組みを再構築していることだ。ものが売れるのには、五つの関与者と七つのコミュニケーションユニットが支えている。それぞれの事例は、こうした売れる仕組みを再構築しているのである(図表2)。
図表2.中堅企業の新営業スタイル 成功の鍵
中堅企業の営業スタイルは、この売れる仕組みを再構築する、という前提で考える必要がある。特に重要なことは、次の三つである。
オンライン営業へシフト
従来どおりのオフラインでの営業スタイルが、成果を出せない時代である。
オンラインの営業スタイルへシフトする必要がある。「日本の営業に関する意識・実態調査」(HubSpot Japan、2019/12)によると、日本での非訪問型営業の導入率は12%。アメリカ47%、ヨーロッパ37%に比較して、非常に低い。
日本ではまだ「アポを取るまでは電話でもかまわないが、クロージングは直接会わなければ難しい」という声も多い。しかし、やりようはある。ビジュアル化された動画やスライドを活用して、見てわかる商談。声の大きさ・テンポ・トーンを上手く使ったパラランゲージ。ヒアリング→要件整理→提案→質疑応答→クロージングの商談シナリオの作成。こうした工夫が成果を上げることにつながる。
また、場合によってはクロージングだけ訪問営業するといった方法もあるだろう。これは、営業改革の大チャンスでもある。オフライン営業は、1日の活動時間の30~50%が移動に使われている。この時間がなくなれば、生産性の飛躍的向上につながる。
固定客との関係維持・深化から
大前提としてやらなければならないのは、固定客との関係の維持・深化である。この時代でも、固定客は支援してくれるのである。
やみくもに新規顧客の獲得、新規販路の開拓をするのではなく、売上の7割以上を占める2~3割の固定客との関係を強化することが重要だ。
そういう意味では、固定客がどれくらいいるか、が成否を分けるであろう。
今一度、自社にとっての固定客、優良顧客を見直すことが必要かもしれない。ただ単に取引額が大きいのが固定客ではない。継続取引期間の長さ、自社へのロイヤリティ、拡大余地(当該カテゴリー売上-自社売上)など、いくつかの条件で、固定客の再定義が必要だ。
D2Cで応援消費を狙う
まずは、固定客に応援してもらうことから、はじめてはどうか。
クラウンドファンディングは、応援消費を狙いやすい。出品コストはゼロ、サイト作成も簡単で、想いのメッセージを込めることができる。今治タオルメーカーのハートウエルのような成果は上げられないにしても、ある程度の成果は出せるはずである。
ただ、クラウドファンディングは、出品期間が限られている。その次の営業のスタイルを確立する必要がある。D2C(Direct to Consumer)への挑戦である。注目されているのは、簡単にオンラインストアが開設できるプラットフォーム「Shopify」である。アマゾンキラーとも呼ばれ、乗り換える業者も多いといわれているECサイトだ。すでに175ヶ国、100万店以上で導入されている。
D2Cの良い点は、モール出店とは異なり、顧客情報が入手でき、顧客との関係構築がしやすいことだ。ビジネスの潮流はD2Cである。一度挑戦する価値はある。
この苦しい時期こそ、新しい営業スタイルを確立するチャンスである。
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