半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:2021年08月30日

地道にファンを増やし続けるキリン「本搾り」のブランド育成
プロジェクト・チーフ 北口知愛


全文の閲覧には無料の会員登録が必要です。
登録済みの方はこちらからログインして全文をご利用ください。

 キリンのチューハイ「本搾り」が売れている。

 2003年に誕生したブランドで、価格が安いわけでもなく、かといって昨今新商品が連発している「プレミアム缶チューハイ」「ストロング系」でもない。製法が難しいため、果汁のおいしさを訴求している割にフレーバーの種類が少ない。さらに、CMもめったに打たない。にもかかわらず、2012年以降連続で2桁成長している。コロナ禍の2020年は巣ごもり需要もあり過去最高売上を達成した。2021年上期も、販売数量が前年比約1割増と堅調に推移している。

 背景には、提供価値にこだわり抜き、それを受容したコアなファンの存在がある。

 本搾りはワインの会社メルシャンで誕生した商品だ。2007年にメルシャンがキリングループの一員となったことから、本搾りもキリンビールに移管した。このような紆余曲折ありながらも、当初の提供価値からぶれず、地道にファンを増やし続けることができたのはなぜか。その理由を探ってみる。


RTDで異色のポジショニング

 そもそも「本搾り」はRTD(Ready to drink、栓を開けてそのまま飲めるお酒)市場の中でも異色の存在だ。まず、2003年の発売以来一貫して「香料・酸味料・糖類無添加」の製法にこだわっている。ワインならまだしも、チューハイでこの製法は珍しいといえる。さらに、コアターゲットが、「40~50代の品質にこだわり、食事を楽しむ層」だ。チューハイのメインターゲットである「甘く飲みやすいお酒が好きな若年層」でもなく「安く酔いたい節約派」でもないというところも異色だ。


熱量の高いコアなファンがファンを呼ぶ、地道な成長

 本搾りは競合商品と比べリピートされる傾向が高く、1人が1回あたりに買う本数が多い。また、コアターゲットの「40~50代の日々の食事を大切にする本物志向層」に、本搾りの「無添加」が響いている。

 2010年代中頃には、CMで認知度を広げようとしたこともあったが、現在はロイヤルティの高いファンに向けて、SNSや店頭での情報発信に注力している。クーポン発行など販促用ではなく、情報発信の場とすることでファンとの結びつきを強めているという(2020年11月2日付 日経クロストレンド)。5年も前の限定フレーバーが復活することを知って、喜んで話題にしてくれるような、息の長いコアなファンが育っているのも特徴だ。彼らが、SNSでの写真投稿や口コミなどで話題を広めることで、地道にファンが増え続けている。


キリンに移っても応援される商品力とインターナルブランディングの努力

 本搾りのもっとも重要な価値は、香料・酸味料・糖類無添加の果汁本来のおいしさだ。その製法さえ変えなければ、パッケージやマーケティング手法を変えても「本搾り」であり続ける。

 本搾りは2007年にキリンビールのブランドとなった。当時のブランド担当者の齋木万起子氏は、「氷結」など既に強い缶チューハイブランドを持っていたキリンにうまく溶け込めるよう、ふたつのことを念頭に置いていたという(「本搾り」ブランドサイト参照)。ひとつ目は、主力フレーバー以外を一度終売し、製造効率を上げ、「売れる商品」だとキリンの本搾りチームメンバーに認識してもらうこと。ふたつ目は、これまでのこだわりを捨て、キリンらしいブランディングに取り組むことだ。

 当初の提供価値を変えることなく貫き、インターナルブランディングの努力も奏功し、長期的な本搾りの成功に結びついた。結果的に、キリンの社員からも本搾りを応援してくれる「ファン」が続出したという。


続きを読む
「『本搾り』誕生の経緯」

続きを読むには無料の会員登録が必要です。


参照コンテンツ


関連用語


業界の業績と戦略を比較分析する


おすすめ新着記事

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター チョコレートの今後購入意向は80%以上! 意外にも男性20~30代と管理職が市場を牽引
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター チョコレートの今後購入意向は80%以上! 意外にも男性20~30代と管理職が市場を牽引

チョコレート商品の値上げが続くなか、成分や機能を訴求したチョコレートが伸びている。今回はどのような人がどんな理由でチョコレートを食べているのか調査した。

成長市場を探せ キャッシュレス決済のなかでも圧倒的なボリュームを誇るクレジットカード決済は、2024年、3年連続の2桁成長で過去最高を連続更新するとともに、初の100兆円台にのせた。ネットショッピングの浸透も拡大に拍車をかけている。  キャッシュレス市場の雄、クレジットカードは3年連続過去最高更新(2025年)
成長市場を探せ キャッシュレス決済のなかでも圧倒的なボリュームを誇るクレジットカード決済は、2024年、3年連続の2桁成長で過去最高を連続更新するとともに、初の100兆円台にのせた。ネットショッピングの浸透も拡大に拍車をかけている。 キャッシュレス市場の雄、クレジットカードは3年連続過去最高更新(2025年)

キャッシュレス決済のなかでも圧倒的なボリュームを誇るクレジットカード決済は、2024年、3年連続の2桁成長で過去最高を連続更新するとともに、初の100兆円台にのせた。ネットショッピングの浸透も拡大に拍車をかけている。

消費者調査データ トップは「ドライゼロ」、2位を争う「オールフリー」「のんある気分」
消費者調査データ トップは「ドライゼロ」、2位を争う「オールフリー」「のんある気分」

アップトレンドが続くノンアルコール飲料。調査結果は「アサヒ ドライゼロ」が首位を獲得、上位にはビールテイストが目立つなかで、「のんある気分」が健闘している。再購入意向では10位内にワインテイストやカクテルテイストの商品も食い込み、ジャンルとしての広がりを感じさせる。



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツプレミアム会員サービス戦略ケースの教科書Online


お知らせ

2025.03.06

クレジットカード決済に関する重要なお知らせ

新着記事

2025.04.04

25年3月の「乗用車販売台数」は3ヶ月連続のプラス

2025.04.03

25年2月の「新設住宅着工戸数」は10ヶ月ぶりのプラスに

2025.04.02

ネット時代に放送局は生き残れるのかーテレビ業界の構造分析

2025.04.01

25年1月の「広告売上高」は、9ヶ月連続のプラス

2025.03.31

企業活動分析 SUBARUの24年3月期は売上台数増加と為替変動による増収効果で大幅増収増益

2025.03.31

企業活動分析 スズキの24年3月期は価格見直し、為替影響などで売上、利益とも過去最高更新

2025.03.28

成長市場を探せ キャッシュレス市場の雄、クレジットカードは3年連続過去最高更新(2025年)

2025.03.27

25年2月の「ファーストフード売上高」は48ヶ月連続のプラスに

2025.03.27

25年2月の「ファミリーレストラン売上高」は36ヶ月連続プラス

2025.03.27

消費からみた景気指標 25年1月は7項目が改善

2025.03.26

25年2月の「コンビニエンスストア売上高」は2ヶ月ぶりのマイナスに

2025.03.26

25年2月の「チェーンストア売上高」は既存店で4ヶ月ぶりのマイナスに

2025.03.26

25年2月の「全国百貨店売上高」は4ヶ月ぶりのマイナスに

 

2025.03.25

25年1月の「商業動態統計調査」は10ヶ月連続のプラス

2025.03.24

中国メーカーの多様化戦略への対応―垂直差別化では勝てない

 

2025.03.24

提言論文 高収入層がけん引するアメリカ消費 - 日本はどうなのか

2025.03.24

企業活動分析 トヨタの24年3月期は営業利益5兆3,529億円、大幅な増収増益を達成

週間アクセスランキング

1位 2024.06.19

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 縮小する野菜ジュース市場 値上げ下でブランド継続は4割

2位 2025.03.24

中国メーカーの多様化戦略への対応―垂直差別化では勝てない

3位 2024.10.24

MNEXT 日本を揺るがす「雪崩現象」―「岩盤保守」の正体

4位 2025.03.14

日本のブランド危機と再生戦略 - トライアドマーケティング

5位 2024.05.10

消費者調査データ エナジードリンク(2024年5月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area