今ある仕事の何割かは、コンピュータに取って代わられるだろう。そんな未来が遠からずやって来そうだ。
情報技術のひとつとして、プログラミングを高度に発展させた「人工知能」による自動化が注目されている。グーグルをはじめ、多くのIT系産業で人工知能に対しての投資が盛んに行われており、自動運転や自動翻訳、アルゴリズム取引などの分野で研究が進んでいる。こうした技術は今後、マーケティングの分野でも大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで、人工知能とはそもそもどのような技術なのか、そしてどのように応用することができるのか、またどんな分野では応用が難しいのかを考えていきたい。
ここで覚えておいてほしいことは、人工知能を応用してビジネスやマーケティングを行う際、必ずしも技術の専門家になる必要はないということだ。マーケティングなどの専門家にとっては、どのようなことが可能か、極端にいえば「どのような入力に対して、どのような出力があるか」を把握し、それをもとにアイディアを出して、専門家と一緒に問題の解決を実践していくことが可能であるからである。つまり、技術の「ユーザー」になって活用することもできるということだ。今のところ、専門家だけでなく、こうした技術を応用するユーザーがまだまだ不足しているという指摘がある[1]。
本稿では、こうした人工知能・自動化に関連する領域として、
- 人工知能の技術についての入門
- マーケティングへの応用例
- マーケティング・サイエンスなどの数理的アプローチ
の3点を中心に解説し、技術を活用できる新たなユーザーを育てることを目的とする。また必要に応じて、これらの技術を利用するためのソフトウェア等の紹介も行う。
技術の話に入る前に現状、上記で述べたような人工知能などの技術の導入で今後、産業全体にどういった影響があるかという、マクロな観点から把握してみたい。
米国の労働省のデータを使って702の職種を分析したFrey, C. B.らの研究によれば、今後10~20年という早い時期に、コンピュータ化によって約47%の職種が自動化されるリスクが高いとしている[2]。また、90%以上の確率で消える職種としては、「テレマーケター」、「時計の修理工」、「データ入力作業員」、「保険引受時の審査担当」、「簿記・会計・監査などの担当者」、「不動産登記の審査・調査」などが挙げられている。このように今後高度に発展したコンピュータが様々な業種に影響を与えることが予想される。中でも、一部、営業に関連するような職種では大きな影響があると指摘されている。
また、ジャストシステムによる職業別の仕事と人工知能に関する実態調査では、調査対象者の仕事が人工知能(AI)に置き換わるかという質問に対して、「販売・接客」が1位で14.6%、2位が「企画・マーケティング(14.3%)」となり、「将来的に全てが人工知能やAIに置き換わると思う」と答えた人が高かった[3]。このように、企画・マーケティングなどに関わる人々の間でも、不安が広がっていることが明らかである。
一方で、国立情報学研究所で人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を牽引する新井紀子教授によれば、銀行の窓口のような仕事よりも、むしろ半沢直樹のようなホワイトカラーの仕事のほうが問題があるとしている[4]。これはコミュニケーションなどが重視されるような業種は、人工知能に代替されないのではないかという理由だ。また、人間が意思決定をしなくてはならない、医師などの分野も残るのではないかと指摘している。
人工知能などの技術についての予測に、2045年問題というものがある。これは、発明家・未来研究で有名なレイ・カーツワイルが、著書「The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology」の中で、2045年に世界は技術的な特異点(シンギュラリティ)を迎えると指摘していることを指す[5]。具体的にいうと、コンピュータが人類の知性を超え、その結果として人々の生活が後戻りできないほど大きな影響を受けるとしている。
高度に発展したコンピュータによって産業や職業がどう変化していくのか、分野を問わず大きな関心が寄せられている。すでに述べたように、徐々に自動化の波が押し寄せる中で、人々が失業するリスクにさらされるのではないかという指摘が数多くある。それを踏まえて、将来的にベーシックインカムなどの対策を国全体で行う必要が出てくるということも議論されている[6]。
これから、人工知能がどのような技術でどのように仕事に関係していくのか、そして現状ではどこが苦手なのかについて把握することは有用である。自動化が苦手な分野などを知ることで、今後どのようなスキルを磨けばいいかが把握できるからだ。
マーケティング・リサーチを例にとってみると、ソーシャル・メディアの発達およびその分析の自動化によって、多くの消費者の声が自動的に入手できるようになってきている。一方で、この技術だけでは高齢者などソーシャル・メディアを利用しない人々の声を集めるのは難しい。さらに、消費行動を理解するためには、単純に言葉で発せられている部分だけを切り取っていても、かなりのバイアスがある。対象者に様々な質問をしたり、観察をしたり、内部の心理・生理的な反応などを正確に把握するためには、(一部代替できるにせよ)現状の単純で自動的なシステムによって代替することはできない。
このように人工知能の技術を知ることで、これらの技術のユーザーになって最新の技術を自分の仕事に応用することができる。さらに、自動化がしやすいものと現状では困難なものを見分けることで、今後どのようなスキルに投資すべきかを把握することにも役立つだろう。
次回以降は、人工知能についての歴史や概要を解説し、マーケティングへの応用例もいくつか挙げていく。さらに、こうしたシステムを導入する際に必要なマーケティングにおける数理的アプローチについても紹介していきたい。
参考文献
https://www.justsystems.com/jp/download/contents/fastask/biz
/report/fa_report-ai-20160823.pdf
参照コンテンツ
【シリーズ】マーケティングのための人工知能入門およびその周辺技術
- (1)人工知能とその社会的インパクト
- (2)人工知能とは
- (3)機械学習の入門およびマーケティング
- (4)ディープラーニングなどの新たな機械学習と因果などの限界
- (5)実践:今日からはじめる機械学習とディープ・ラーニング
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