半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

(2017.02)
マーケティングのための人工知能入門およびその周辺技術
(2)人工知能とは
客員研究員 沖縄国際大学 金城敬太



本コンテンツの全文は、会員サービスでのご提供となっております。
ご利用には無料または有料の会員登録が必要です。
ご登録済みの方は、こちらから全文をご利用ください。
会員のご登録はこちらをご覧ください。

 データを扱う技術のなかで、今日特に注目されているのが人工知能だ。中でも、大量のデータから新たな知識を獲得する機械学習と呼ばれる人工知能の一分野が注目されている。今回は、こうした技術がどのように利用されるようになるかを踏まえて、人工知能の歴史や分類、問題点をまとめてみたい。

 一般的に人工知能と聞くと、iPhoneの音声アシスタントSiriやSoftBankの人型ロボットPepperのような会話システムが連想されるだろう。しかし、人工知能の技術が具体的にどのようなものを指すのかは、あまり知られていないのではないか。

 人工知能は、大まかにいえば人間が知識を使ってするようなこと、問題の解決を機械にさせようとするものである。詳しく分類すると、問題の答えを自動的に「探索」する方法、どのように知識を表現するかという「知識表現」、過去の知識から新しい情報を導く「推論」、最適な計画を組み立てる「プランニング」、そのなかで最適な選択を行うための「意思決定」、そして自動翻訳など言葉を機械的に処理する「自然言語処理」、音声や画像データを言葉や概念に結びつけて処理する「音声認識」、「画像認識」、そして実世界に対して直接アクションを起こす「自動運転」や「ロボット」、身近なものではAmazonの「自動推薦システム」など、研究の対象領域は多岐に渡る。

 最近よく聞くようになった「機械学習」や、その技術のひとつである「ディープラーニング」といったものだけではない。複数の技術が組み合わさって人工知能を形成している。


1.人工知能の歴史とブーム

 人工知能の全体的な研究領域を把握するため、簡単に歴史を紹介する。実はこれまでも人工知能のブームや、冬の時代があった。今回はその何度目かのブームである。

 1945年にノイマン型コンピュータが発表され、機械による計算が徐々に発展していった。そして、「人間の知的活動を行う機械」を作る試みが始まった。1956年、マッカーシーなどの数学者や心理学者らが集まった会議で、「人工知能」という言葉が初めて使われた。

 1970-80年代は、人の知識を記号で記述して、それを操作する人工知能が提唱された。1982年ごろ日本でも、第五世代コンピュータプロジェクトと呼ばれる、人工知能のプロジェクトがスタートしている。知識を記号論理で記述し、それとともに推論(後述)システムを開発して、高度な知能を実現することを目指していた。応用としては、エキスパート・システムという人間の専門家の意志決定を真似るシステムが多数構築されている。

 1990年代-2000年代前半までは一時期、人工知能冬の時代とも呼ばれていた。ただし、ネットワーク技術の発達で、データ量が爆発的に増加する環境下にあった。また、今日発展しているニューラルネットワーク、データマイニング、サポートベクターマシン(SVM)、スパースコーディングといった機械学習に関連する技術も研究されていた[1][2]。そして2010年代に入り、この分野の研究がさらに進むと、画像認識などで飛躍的な成果を出すようになった[3]。その結果、高度な処理方法を自動的に獲得することが一部可能になり、再び機械学習がブームとなっている。

 このように人工知能の研究史を大きく分けると「黎明期」→「論理に基づいた方法」→「機械学習」(+α)となる。人工知能には何度か異なるアプローチのブームがある。

 ただし昨今のブームは、これまでとは異なっている。今回のポイントは、

  • 環境として、大量のデータ(ビッグデータ)が容易に手に入るようになったこと
  • ハードウェアとして、速くて安い並列処理ができる演算装置が入手可能になってきたこと
  • ソフトウエアの面では、画像認識などの複雑な処理を自動的に学習できるようになったこと

などだ。医療診断におけるIBMのワトソンの利用をはじめ、身近な事例ではディープラーニングを用いたGoogle翻訳の改善や、株の自動取引、運転の補助システムなど、広い分野で人工知能が活用されている。


2. 人工知能のレベルと、強いAI・弱いAI

 このように本来の人工知能には様々な技術や歴史がある。しかし、世間で「人工知能」と呼ばれるものには、こうした技術を含んでいないものも多い。

 また、人工知能と呼ばれるものの中にはレベルがあるということが指摘されている[4]。このレベルを把握することで、本当に「人工知能」の技術を用いているのか、単にバズワードなのかの区別がつく。それぞれのレベルについて説明してみると、以下のようになる。

  • レベル1:単純な制御プログラムを「人工知能」としている。
    例:制御を搭載したエアコン、電動シェイバー、洗濯機など。自動的に最適なコントールを行う。
  • レベル2:古典的な「人工知能」を利用している。
    例:推論や探索を行って診断やパズルを解く。エキスパート・システムや、簡単な質問応答システムなど。ルールや知識を記述する必要があり、知識表現が大事。
  • レベル3:機械学習を取り入れた人工知能。
    例:自ら学習する機能を持ち、ビッグデータなどを用いてレベル2をより拡張したもの。カメラの顔検知なども機械学習の一種。
  • レベル4:ディープラーニングを取り入れた人工知能。
    例:自ら外部の入力の特徴を表現する「特徴表現」を学習する人工知能。Googleの実験で、大量の画像を読み込ませた際に、自動的にネコの画像を抽出することに成功した。

 一方で、人工知能には「強いAI(Strong AI)」と「弱いAI(Weak AI)」と呼ばれる区分も存在する[5]。「弱いAI」とは、特定の領域に特化し、問題解決をおこなうプログラムの開発を目指している。現状の人工知能の研究は、主にここに焦点があてられている。囲碁用の人工知能などは、この「弱いAI」に該当する。

 「強いAI」は、特定の領域に特化するのではなく、人のような汎用的な知能の開発を目指している。研究段階ではあるが、技術の開発や議論も盛んに行われている。


【続きを読む】(無料・有料会員向け)


参考文献

[1]  Boser, B. E., Guyon, I. M., & Vapnik, V. N. (1992, July). A training algorithm for optimal margin classifiers. In Proceedings of the fifth annual workshop on Computational learning theory (pp. 144-152). ACM.
[2]  Agrawal, R., & Srikant, R. (1994, September). Fast algorithms for mining association rules. In Proc. 20th int. conf. very large data bases, VLDB (Vol. 1215, pp. 487-499).
[3]  LeCun, Y., Bengio, Y., & Hinton, G. (2015). Deep learning. Nature, 521(7553), 436-444.
[4]  松尾豊. (2015). 人工知能は人間を超えるか. 角川 EPUB 選書.
[5]  Searle, J. (1980) Minds, Brains and Programs, Behavioral and Brain Sciences, 3 (3), 417-457.

参照コンテンツ


【シリーズ】マーケティングのための人工知能入門およびその周辺技術


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツ プレミアム会員サービス 戦略ケースの教科書Online


新着記事

2024.11.20

24年9月の「旅行業者取扱高」は19年比で75%に

2024.11.19

24年10月の「景気の先行き判断」は2ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.11.19

24年10月の「景気の現状判断」は8ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.11.18

企業活動分析 アルファベット(グーグル)の23年12月期は、グーグルサービスがけん引し売上過去最高を更新

2024.11.18

企業活動分析 アマゾンの23年12月期はAWSがけん引し営業利益前年比3倍へ

2024.11.15

24年9月の「現金給与総額」は33ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.11.14

24年9月の「消費支出」は5ヶ月連続のマイナスに

2024.11.14

24年9月の「家計収入」は5ヶ月ぶりのマイナス

2024.11.13

24年9月は「完全失業率」、「有効求人倍率」とも改善

2024.11.12

企業活動分析 ローソンの23年2月期は、「地域密着×個客・個店主義」徹底し増収増益

2024.11.12

企業活動分析 セブン&アイHDの24年2月期は海外事業の影響で減収も過去最高益を更新

2024.11.11

24年10月の「乗用車販売台数」は2ヶ月連続のプラス

2024.11.08

消費者調査データ No.416 レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア

2024.11.07

企業活動分析 楽天グループの23年12月期は27期連続増収も、モバイルへの投資で4期連続の赤字

2024.11.07

24年9月の「新設住宅着工戸数」は5ヶ月連続のマイナス

2024.11.06

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場  背景にある簡便化志向や節約志向

2024.11.05

企業活動分析 ファンケルの24年3月期算は国内売上がけん引し、3期ぶりの増収増益へ

2024.11.05

企業活動分析 コーセーの23年12月期は、国内好調も中国事業低迷で増収減益に

2024.11.01

成長市場を探せ コロナ禍の落ち込みから再成長する惣菜食市場(2024年)

2024.10.31

月例消費レポート 2024年10月号 消費は緩やかな改善が続いている-政治が消費回復のリスクに

2024.10.31

消費からみた景気指標 24年8月は6項目が改善

週間アクセスランキング

1位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

2位 2017.09.19

MNEXT 眼のつけどころ なぜ日本の若者はインスタに走り、世界の若者はタトゥーを入れるのか?

3位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

4位 2024.02.02

成長市場を探せ コロナ禍乗り越え再び拡大するチョコレート市場(2024年)

5位 2021.05.25

MNEXT 眼のつけどころ プロ・マーケティングの組み立て方 都心高級ホテル競争 「アマン」VS.「リッツ」(1)

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area