多くの業界で市場成熟が進展している。こうした環境下での新規の売り先や売場を開拓していく営業活動はイコール競合の取引先や売場を奪取することを意味する。開拓先と競合の間にあるこれまでの取引や取り組みの関係を越えて自社にスイッチしてもらえるような新たな条件を創造しなければならない。競合は既得権の上に、守りの方策を講じてくる。新規開拓の営業は益々困難になっている。また、闇雲に量を追求するだけの新規開拓営業の危険性は、第8回「拡販余地の開拓営業」で指摘した通りである。メーカーがその開発商品を基軸に市場創造でき、取扱先を比較的容易に開拓することができた時代が終わってしまった今、既存顧客の維持が逆に重要なテーマとして浮上している。一般論として既存顧客の維持コストは新規客獲得コストの5分の1とも言われている。
顧客維持の鍵は、継続した取引先への役立ちを実現することである。あなたには、提案営業の連鎖をつくることが要請される。このためには、武器となる提案書をタイミングよく提出していく必要がある。さて、あなたの提案書はどうなっているだろう。提案書というと気構えして小冊子のようなボリュームのものを作成してはいないだろうか。提案書は目標達成のための手段のひとつにしかすぎないし、あなたが提案したい内容を表現したものであれば十分である。極端に言えば、A4のペラ一枚でもよい。たとえ体裁は貧弱でも取引先の課題解決につながる「あなたの考え」を提示することである。つぎのような割り切りをしてみてはどうか。そして、ピンポイント提案書を機動的に活用することだ。
- 取引先の社内会議で検討資料に使われれば十分である
- 営業先担当者の本音や意見を引き出すにはポイントを明瞭にしたもので十分である
- 必要以上に分量ある提案書は読まれない
このピンポイント提案書で外してはいけないポイントは三つである。このポイントを外さないためには、バイヤーの商品仕入に関する基本方針や現在の得意先企業が置かれている環境を客観的に捉えておく必要がある。
- 提案の背景となる取引先の抱える課題の整理
- 提案の内容が取引先にどのような効果・メリットを生み出すのか
- 具体的な実行計画と予算
さて肝心なのは、ピンポイント提案書を提出した後のフォローである。ここでのポイントも三つある。
- 提案内容が取引先サイドでどの程度検討されているのかをチェックする
- 提案内容の決定スピードを上げるために、関連資料や正式な提案書を提出する
- 提案によって変化が予想される取引先の他部門の反応をチェックする
図表.商品採用に関するバイヤーの基本方針の事例

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