世界ビールメーカーが中国市場で覇権争い | 本稿は、「週刊エコノミスト2007年4月3日号」掲載記事のオリジナル原稿です。 |
楊 亮 | |
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激戦・第4ラウンド | ||
日本国内のビール系飲料は97年から漸減傾向である。一方、中国のビール生産量・消費量は、03年に米国を抜き世界第1位となり、その後も拡大している。さらに、1人当たり年間消費量(05年)24.4リットルは、日本人の5割程度に過ぎず、今後の拡大余地も見込まれる。13億人(酒類販売が法律で認められる18歳以上は約9億人)の巨大で豊潤な市場を巡り、世界のビールメーカーが覇権争いを繰り広げている。 戦いは、第4ラウンドを迎えている。92年の共産党大会「社会主義市場経済の建設」宣言により外資規制が緩和され、アンハイザー・ブッシュやSABミラー等、外資が参入した96年までが第1ラウンド。97年~00年は、この外資参入ラッシュに危機感を覚えた中国政府が国内メーカー保護の税制優遇策(97年)を打ち、一転して国内大手が再編を主導する第2ラウンドとなった。青島ビールはこの間、40社以上を買収、燕京ビールも華斯ビールを合併するなどピーク時の約800社が350社程度へ集約された。そして、01年のWTO加盟で第3ラウンドが始まる。地域、数量、出資の各規制撤廃の経済開放策は、外資の中国市場での内販も可能にしたため、外資による地場メーカー買収が再び活発化した。そして現在、国内メーカー再編と外資参入が一巡し、戦いは第4ラウンドを迎えようとしている。この激戦における日本のビール各社のエリア戦略、商品戦略、今後の展開を探る。 | ||
先行するサントリー、追いかけるアサヒ、キリン | ||
一方、日本で2強のアサヒ、キリンも、サントリーを追いかける。アサヒは94年から中国参入。杭州ビール、泉州ビール、北京ビール、煙台ビールの経営権を取得し、さらに、青島ビールと青島朝日有限公司を設立し、「朝日」「スーパードライ」「青島」「北京」の4ブランドを揃え、杭州、泉州、北京、煙台、の五つのエリアを中心に事業推進している。サントリーのローカルブランド展開に対し、アサヒが注力しているのは、スーパードライのグローバルブランド化である。地場ビールメーカーの販売ネットワークと試飲キャンペーンを積極展開し、高価格帯設定でありながら、販売量を伸ばしている。他ブランドも合わせた販売数量は約4,500万ケース(推定)と数量では、既にサントリーを凌駕し、中国地場メーカーにも迫る。今年は、浙江省湖州市に五つめの新工場を建設、日本のビールメーカーでは中国での生産能力を最大とし、市場攻略体制を整える。 96年参入のキリンは、05年から戦略転換を急いでいる。上海に酒類事業を統括推進する麒麟(中国)投資有限公司を設立、北部では大連大雪へ資本参加で生産拠点を確保、南部でも麒麟(珠海)を設立し、今年6月竣工予定で新ビール工場を2007年6月に完成させる。重点エリアを長江デルタ、珠江デルタ、東北三省と再定義し、上海向けの「麒麟清醇」、大連で「最麒麟」、珠海とその周辺向けで「麒麟一番搾」「麒麟純真味」と、地域別ブランドでの攻略体制を整えている。また、浙江省で唯一海外資本を受け入れていなかった杭州千島湖有限公司に資本参加し、華東地域でトップを誇る「千島湖」ブランドの展開も視野に入れる。 サントリーの上海フォーカス・ローカルブランド展開、アサヒの中国全土を視野に入れたスーパードライのグローバルブランド展開、そして両社の中間を行くキリンのエリア重点化・エリアブランド展開と各社の戦略は明確に分かれている。これに中国勢の青島、華潤、燕京、重慶、金威、さらに世界最大手のインベブ、アンハイザー、SABミラーの三強が絡み、第4ラウンドの勝利の行方は混沌としている。 (2009.05)
※本稿は代表の松田の貴重な助言に基づいて執筆したものです。 |
参照コンテンツ
- 戦略ケース 2007年ビール回帰戦争勃発キリン VS. アサヒ(2007年)
- 中国市場の現在 中国ビール市場の新動向 - M&A 外資が中国事業強化する新しい手法 (2006年)
- 企業活動分析 キリンビール / アサヒビール