中国都市部に広がる貧富差 | |
楊 亮 | |
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大棚欄(ダイシラン)は北京の前門と天安門に近い中心地に位置し、清朝から北京の商業中心地として繁栄してきた下町である。1669年に創業した漢方薬の老舗「同仁堂」は1702年に当地に移り、清朝8代の皇帝の指名により188年の間、皇室に漢方薬を提供した。このほかに六必居(漬物屋)、内聯昇(靴屋)、瑞フ祥(布屋)など老舗が多く密集している。 中国財政部の報告によると、現在中国総人口の20%を占める最貧困層の収入、消費に占める割合は僅か4.7%で、同じく人口の20%を占める富裕層は、収入、消費に占める割合が50%にも達している。これまで中国では、内陸と沿海、東部と西部、都市部と農村部など地域間における収入格差が社会問題として注目されてきた。しかし、最近の調査では、同じ都市においても賃金格差による収入の格差が急速に広がっている。例えば、中国国内でいちはやく改革軌道に乗った広州では、企業の会長の月給が54万6,000円(4万1,844元)で、警備員との賃金格差が74倍までに広がった。中国の金融センターの役割を担う上海では、銀行の支店長と清掃係との格差は70倍に達した。内陸に位置する重慶市では、沿海地域と比較して格差が少ないものの、27倍となっている(表1)。
収入格差は市場経済の発展がもたらす一般的な社会現象である。ただし、中国で都市部における収入格差が急速に広がった背景には、一部の人に富が集中しているというだけでなく、富裕層が税金を正しく納めていないという不公平が存在していると考えられる。中国の統計データによると、2004年所得税税収のうち80%は会社に勤めるサラリーマンから徴収され、総収入の半分を占める富裕層が支払う税金は人口に占める比率と同じ20%にすぎない。 中国の個人所得税法は日本と同様に累進課税制度で、高額所得者に対しては最高税率45%が課せられる。しかし、なぜ高額所得者の納税金額は低いのだろうか。 その理由として、中国社会においては一般的に納税意識が非常に低いという点が挙げられる。会社から個人まで、何とか税金を少なくしようと様々な対策を講じている。一番よく使われているのは、名目給料を一番課税率の低い金額に設定し、実際給料との差額を福利厚生(洋服代とか)などの名目にかえて支給するという手法である。また大企業は、しばしば給料の一部を「団体保険」の加入に使う。同じ月に加入した保険をキャンセルすれば、保険会社に5%の手数料を支払うものの、戻った金額に対して税金を支払わなくて済むからだ。さらに、中国高額所得者の収入源が多数であるため、税務局は把握するのが難しい。 税法を見直し、所得格差の是正を図るために、今年8月に政府は所得税法案の修正に手をつけ始めた。まず基礎控除額を従来の800元から1,500元に引き上げた。また、高額所得者の納税を強化するために中国税務局は個人所得税情報管理システムを構築し、高所得業種及び高額所得者に対して重点的な管理を行う方針を打ち出した。高所得業種については、電信電話、銀行、保険、証券、石油、石油化学、タバコ、航空、鉄道、不動産、プロサッカークラブ、外資系企業、ハイテク分野と定められた。高額所得者に関しては、年収10万元(約130万円)以上の個人経営者、土地開発ディベロッパー、芸能人、弁護士、会計士、税理士、アナリストなどと定義している。高額所得者は全て個人申告と定め、申告しない、また少なく申告した場合には、脱税した金額の半分以上5倍以下の罰金を徴収すると厳しく定めた。 中国政府はいま、所得格差が社会の安定を深刻に脅かすレベルに達していることを認識しており、今回の税法修正を通じて、一般所得者に対しては税金負担の軽減を、高額所得者に対しては申告管理の強化を狙いとしている。収入格差の問題をうまく解決すれば、今後の中国の安定成長に繋がるが、失敗したら、中国共産党政権を左右しかねない重大な政治問題になる可能性が大きい。 (2005.11)
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