中国成功事例 | |
-ハーバードMBAコースの最新中国事例 | |
楊 亮 | |
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この一人のアメリカ人男性は、なぜ中国の母子マーケットに着目したのか。また、どのような市場戦略を取ったのかここで分析してみる。 中国でニッチマーケット(隙間市場)の発見マッシューはグローバル製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)に入社して5年目の1990年、GSKの中国での合弁会社のセールスマネジャーとして、天津に赴任した。営業活動で中国各地の病院を訪問し、医師に面談していたが、訪問先の病院で、いつもマッシューの目に入ったのは検査、相談などで来ている妊娠している女性たちの長い列である。中国では、欧米、日本のように個人が開業するクリニックのような施設がなく、病気のとき、総合病院でしか受診してもらえない。アメリカでは、妊娠・出産、育児について様々なチャネルから専門的科学的な知識を得られるが、中国では当時多くの女性はまだ親世代の経験に頼っていた。しかし、両親の経験はもう時代遅れで、若い世代が抱える問題を科学的に説明できない。病院の医師は専門家ではあるが、毎日多くの患者を相手にして、詳しい説明、指導もできない。 また、中国では1980年代初めに人口増加を抑制するために「一人子政策」を始めてから、妊娠中の女性と子供の健康に対して社会の関心度は一気に高まっていた。中国各都市の消費レベルを分析すると、ハイクラス、ミドルクラス、ロークラス三つの消費レベルに分かれる。家庭で子供の栄養食品、教育、玩具などに毎月使う金額はそれぞれのレベルでは740元、590元、420元となっていた。さらに中国では毎年の新生児が約350万人...このような現状から、マッシューは中国で母子ための専門・科学的な教育チャネルが必要で、しかもその市場の需要は大きいと考え始めた。 その後、マッシューは中国市場について緻密な調査を行った。資金面でも、香港パシフィックグループ、バンク・オフ・アメリカ、アメリカの投資基金KKRなどの外国の機関投資家が、今後成長する中国の母子マーケットの将来性を認め、計1300万ドルの資本金を投資した。 口コミによる会社商品・サービスの広がりBabyCare社の業務内容は、自社生産した母子用サプリメント及び知育玩具の販売と出産、育児に関する専門知識の講座の二部門によって構成されている。講座の高品質を維持するために、講師になる人には必ず産婦人科、小児科、或は児童教育分野での5年以上の仕事経験が求められる。講座内容は専門家によって開発され、100回に渡る講座は妊娠から出産まで、0-6歳児までの様々な成長段階においてよくある質問を全部網羅している。また、BabyCare社は子供の年齢、性別によってクラスを分けて、両親参加型で子供の早期知育の開発にも取り組んでいる。会社設立当初、オフィスビルで受講センターを開いたところ、たちまちホワイトカラーの女性の間で人気を獲得した。さらに、彼女たちは知り合いや、友達にBabyCare社を紹介し、一緒に講座を受けたり、商品を購入したりするようになった。 BabyCare社の設立以前でも、市場には乳幼児、妊娠女性を対象にした国産の栄養サプリメントは少なくなかった。また高い外国輸入製品も店に並んでいた。しかし、店員には製品の知識がなく、消費者に質問されても説明できない。唯一消費者が商品知識を得る手段である広告は消費者それぞれの個別の問題に答えられない。消費者は高いものがいいと思い、値段が商品購入の判断ポイントになるケースが多かった。 このような状況下、BabeCare社は自社製品の販売のために、従来型の宣伝手段と流通手段を選ばなかった。自社の担当販売員が直接消費者に商品を販売するという直販体制を採用。商品を求めて買いに来る消費者に対してはそれぞれの担当販売員を設けて、顧客プロフィールを作成する。担当販売員は消費者からの質問に回答し、自社の商品を説明する。また顧客データベースを構築することによって、各商品の販売状況、品種の調整などが正確に判断ができ、将来の売上予測も可能になった。 商品とサービスを通じてBabyCare社は深く女性消費者の心を掴み、「顧客が顧客を説得する」構造が生まれた。現在在籍している4,500名の販売員のうち、ほとんどが同社の講座の受講者、または商品のユーザーである。商品とサービスで消費者の信頼を獲得するという従来の市場の法則以外に、消費者の自発的な口コミを活用したことはBabyCare社の中国での成功に大きく寄与したと思われる。この点は最近日本で生まれたヒット商品にも共通している。 近年、世界各国から様々な製品とサービスが集中的に中国に流入している。いまや大手日本メーカーのほとんどが中国に工場を持っている。一方、中国製造業は集約型でない零細企業が多いため、技術力があり、消費者研究に基づく商品開発が進んでいる外国メーカーに比べて、一時的に儲かればいいと、流行に乗じて、売れるものを製造し、市場に追随するメーカーが多い。そのため、物・労働力が安い中国では、日本企業は"安さ"で勝負する構造を作れない。 市場のトレンドに敏感で、"消費者のこだわり"を具現化することを得意とする日本メーカーは、その強みを生かして、地域によって違う消費者特徴・ニーズに対応できる製品、マス・マーケットにならない特定層に深く入り込んでそこから拡げるというマーケティングができる充分な可能性を持っている。この事例は日本企業にもそのような展開をすべきであるということを示唆するものである。 (2005.12)
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