中国で増加する新たな「負け組」。 今後の消費市場の主役となるか? | |
~「屌絲」族-若者文化から生まれた社会現象~ | |
楊 亮 | |
2012年、中国最大手のサーチエンジン「百度Baidu」が行った「年間流行語」の調査で、首位に選ばれたのは、「屌絲」(ディオスー)という言葉である。中国人ならだれでも知っているこの言葉は、中国メディアでちやほやされている「高富貴」(日本でいうところの「3高」)の逆バージョンで、「社会にコネなし、安い給料で車・住宅を望めない負け組」を意味する。経済的に日々変化している中国の現実に無力感を抱く若者は、自嘲気味な調子でこの言葉をよく使う。 「屌絲」という言葉は、最初に中国版の電子掲示板システムに出始めた。元々は、中国のサッカー選手である李毅(リー・イー/元中国代表)が、「俺もティエリ・アンリ(元フランス代表)のようにボールをキープ出来るぜ!」と豪語した事が始まりだったという。オンライン上で彼が冷やかされるように「大帝(Da Di)」と呼ばれるようになり、李毅を応援するファンもまた「大帝的粉絲(大帝のファン)」と蔑称された。そして、「大帝的粉絲」が略されて、「D絲」と呼ばれるようになった。そのうち、相手を罵る下品な単語である「屌」を当てはめ、「屌絲」という言葉が誕生した。言葉遊びから来たこの言葉は、いま中国でひとつの社会現象になっている。具体的には、社会的な地位や財富、明るい将来性を持っている「勝ち組」に対して、背が低くて格好悪い、お金がない「負け組」という人々の代名詞となっている。 2013年、中国のポータルサイト「Sohu.com」は「屌絲」に関する調査を行った。その結果によると、約4割の人が「負け組」に属しているという認識を持っていることが分かった。調査によると、「屌絲」は以下のような特徴があるとされる。
2012年の北京市民の毎月平均可処分所得は約3,000元である。これと比較して、「屌絲」族のほとんどは、車、住宅のローンがないため、消費能力はそれほど低くないと考えられる。特に、2012年の中国のGDP増加率の低下、および政府の腐敗追放政策実施の影響で、高級贅沢品の消費は、2012年の17.5億ドルから2013年には8.3億ドルと半分以下にまで減少している。こうした中、多くの中国企業は、消費の主流が人口ボリュームの大きい「屌絲」族、つまり「負け組」だと認識し、彼らの消費に対する意識や習慣を研究し始めた。 「屌絲」族の潜在的な消費能力を狙って、ネット経由でサービスを提供する会社の成功事例をふたつ紹介する。
また、前述の調査より、「屌絲」族は、品質やトレンドを重視して商品・サービスを選択する特徴があることが分かっている。中国のスマホ市場において、国産ブランド「小米」は、アップルやサムスン電子がターゲットとしているハイエンドユーザーより、高性能・高品質を重視する「屌絲」族を販売対象に絞る市場戦略を採り、短期間で市場シェアを大きく伸ばしたと考えられている。今後、消費能力を持った「負け組」に注目することが、新たな市場チャンスの獲得につながっていくと考えられる。 (2014.07)
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