突然ですが「銀ブラ」の由来をご存じでしょうか。「銀座でブラブラする」や「銀座でブラジル珈琲を飲む」など諸説あるようですが、一般的には銀座でブラブラするという意味を使うことが多いようですね。
この銀ブラに欠かせないものといえば、歩行者天国。今年は開始から50年という記念すべき年でしたが、残念ながらホコ天も例外なくコロナの影響を受けてしまいました。これまでは、よほどの悪天候でない限り、毎週末と祝日はほぼ休むことなく行われていたホコ天も、3月28日から長期休止せざるを得ない事態になってしまったのです。そして、歩行者天国の休止とともに銀座からは徐々に人影が消え、そこにいることすら憚られるほど無機質な街と化しました。さらに、4月からの緊急事態宣言後は、追い打ちをかけるように多くの店舗が休業。結果、もともと見通しのいい銀座のホコ天は、歩行者の天国にするまでもなくガランとした寂れた天国になってしまったのです。
再開を果たしたのは、それから約3ヶ月後の6月13日。あいにくの雨の中、銀座にはホコ天の再開を喜び、銀ブラを楽しむ人々の姿がありました。そして、その日の正午、銀座のシンボル「和光本館」の時計塔から流れたのは、ニューノーマルへの希望と医療従事者への感謝を込めて作られた、この日だけの特別な鐘の音。戦火を免れた和光の鐘だからこそ、その音色は人々の胸にズシンと響き、どんな困難にも立ち向かっていくぞ!という強い希望をもたらしてくれたのです。
そもそも、銀座の歩行者天国は1970年8月2日、新宿、池袋、浅草とともにスタートしました。中でも、銀座通り口から銀座8丁目までまっすぐ延びる約1キロメートルの車道を悠々と歩ける銀座の歩行者天国は、当時から別格だったのでしょう。翌1971年には、日清食品が銀座三越前で発売間もないカップヌードルの試食販売を実施。ホコ天で行うことで、外で歩きながら食べてもいい画期的なラーメンという印象を広く知らしめることに成功したのです。のちに、カップヌードルが世界規模のヒット商品となる礎は、実は銀座のホコ天で作られたものだったんですね。また、やはり銀座三越の一階に誕生したマクドナルド日本一号店でも、ホコ天で試食販売を実施。アメリカからやってきた、食べ歩きもできるハンバーガーという存在を初めて紹介したのも、やはり銀座のホコ天でした。そんな風に、流行の仕掛人たちに愛され、今も老舗百貨店やハイブランドなどが建ち並ぶ銀座のホコ天は、いつの時代も日本が誇る最強の流行発信地なのです。
そして、ホコ天の再開に伴い再び銀座に賑わいが戻ってきた頃、さらなる呼び水となるべく大々的に誕生したのが「UNIQLO TOKYO」でした。女優の宮沢りえさんと歌舞伎俳優の市川海老蔵さんがアンバサダーをつとめ、今年6月19日に銀座3丁目にある商業ビル「マロニエゲート銀座2」(旧プランタン銀座)にオープン。売り場面積は約5,000平方メートルで、1階から4階までのフロアがユニクロという世界最大級のグローバル旗艦店として開業しました。
オープニングセレモニーには、市川海老蔵さんも登場。オープンを華々しく盛り上げましたが、一方で、この日は「エアリズムマスク」の発売日でもあったので、マスク目当てに押し寄せた客が長蛇の列を成すなど、なんとも話題の絶えないオープニングになったのです。悔しくもコロナ禍でのオープンとなってしまった事態にあえてぶつけてきたかどうかはわかりませんが、この「エアリズムマスク」の発売は、間違いなく一日にして「UNIQLO TOKYO」の存在を世に知らしめることになったのです。
店内のトータルクリエイティブディレクターを担当したのは佐藤可士和氏。デザインチームにはスイスの建築家ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」を迎え入れ、それまで不評だった低い天井を大胆にバッサリ取り除き、あえて打ちっぱなしのまま、開放的な地上4層の吹き抜けを出現させました。
「UNIQLO TOKYO」のコンセプトは、「LifeWearのすべてをここに」。ユニクロがこれまで展開してきたライフウェアを、ここでは販売するだけでなく、展示品としても紹介しています。例えば、アーティストとのコラボTシャツや書籍などの展示スペースでは、アンディ・ウォーホルやキース・ヘリングなどとのコラボ作品が並べられ、ちょっとしたミュージアム仕様に。また、4階には「UT(ユニクロTシャツブランド)」のアーカイブスペースを設置し、UTの全商品となる約1,000点ものTシャツを販売。欲しいTシャツのほとんどが揃うので、必然的に購買意欲も高まります。さらに、銀座ならではのサービスとして人気を集めているのが、世界にひとつだけのオリジナルTシャツが作れる「UTme!」というエリア。ここでは、銀座の老舗や人気店のロゴデザインなどを自由に使い、自分だけのオリジナルアイテムを創作できるので、Tシャツやトートバッグなどにプリントすれば、インバウンドなら真っ先に飛びつきそうなオシャレで粋な和アイテムを作ることも可能。身につけて銀ブラすれば、いつもより銀座が身近に感じられ、銀ブラがより楽しいものになるかもしれませんね。
後編(銀座復活を支えたふたつのプロジェクトと「夜の街」のママたちの奮闘)
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
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参照コンテンツ
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