バイキング、ウェディングサービス、郵便局、ランドリーサービス。
今では当たり前のようにホテルに取り入れられているこれらのサービスのほとんどは、元を辿ると帝国ホテルが始まりです。また、先日報道があったように、2036年度までに帝国ホテル東京は建て替えが計画されています。
この歴史ある帝国ホテルを含むホテル業界も、コロナで大きな影響を受けました。しかし、人々の旅行への欲望が消滅したわけではありません。むしろ、「旅行に出かけたい」という欲望は高まっているといえます。
旅行には、財だけではなく、サービス、コンテンツが含まれており、人々の様々なニーズを充足してくれます。
感染が抑え込まれていけば、「近場の宿泊でリフレッシュしたい」「久しぶりに友達とゆったりお茶をしたい」「美味しいものが食べたい」といった人々の多様な欲望を、ホテルは叶えてくれます。
今回は、帝国ホテルの代名詞のひとつともいえる「ブフェレストラン インペリアルバイキング サール」を訪れ、これからの旅行やホテル需要回復に向けたヒントを探ってみました。
帝国ホテル東京本館17階の「インペリアルバイキング サール」は、コロナ禍のニューノーマルによってその楽しみが衰退するどころか、さらに増したように思えます。バイキング、ブッフェの醍醐味は、目の前に広がるたくさんの色とりどりな料理の美しさ、目の前で作ってくれるライブ感、それを好きなだけ食べられるということではないでしょうか。
コロナ禍であっても、その楽しみを損なわないよう、各場所にモニターが設置され、どのように調理しているかが、リアルタイムでより鮮明に見えるというライブ感が味わえるよう工夫されていました。
自分のオーダーしたものが調理されていくのを見ているのは、それだけでワクワクしますよ。
取り分け前の料理や食材もディスプレイされており、ブッフェの臨場感はきちんと保たれています。また、お客様が料理を取りに行く場所の密を避ける為に、各テーブルに1台ずつ設置されているタブレット端末によるオーダーも可能です。
老舗ホテルといえど、最新機器を躊躇なく採り入れているところに、時代のニーズを読み取り実行に移す瞬発力を感じます。
画面上のおすすめメニューには「★」マークが付いていて、初めてでも分かりやすく見やすいレイアウトになっています。さらに料理の個数、味付けやボリュームなどもタブレット上で選択できます。
自分で取りに行く手間もなく、綺麗に盛られて運ばれてきます。オーダー制だからといってそこまで待たされることもありません。
着席してまもなく、シェフおすすめのオードブルスタンドが運ばれてきました。アフタヌーンティーで出てくるようなスタンドに並べられたオードブルは立体感があり、お皿で出てくるよりもより特別感が増しますね。
また、1品目を考えて運ばれてくるまでの時間のロスがなくてすぐに楽しめます。バイキングは90分制。タブレットによるオーダーのため、自分でタイミングも選べるし、出来立ての料理が運ばれてくるので十分な時間です。
平日ランチは大人8,800円(税込、サービス料別)、土日祝ランチは大人11,000円(同)です。また、現在は座席数が通常の200席から、100席に絞られており、十分な間隔が保たれています。
まずは冷たい前菜3種盛り合わせをオーダー。オーダーし終わったところで、小さめのカップに入った伝統のコンソメスープが運ばれてきました。シンプルなのにとても深みを感じられこれから運ばれる料理が楽しみになります。
提供しているメニューは全部で40種類ほど。デザートは20種類ほどあります。
ほとんどのメニューを注文してみて、印象に残ったのは「ポテトサラダ ミモザ風」、「野菜たっぷり伝統のカレー」です。これは、現代のアレンジされた最新料理とは違い、昔からあるようなどこか懐かしい味という印象でした。
"元祖マジック"にかかっているのでしょうか。すべてが発祥のように感じてしまいます。実際の料理の歴史も長く、ポテトサラダのレシピは大正時代から受け継がれているそうです。具材はジャガイモと玉ねぎだけ。
カレーは帝国ホテル第8代料理長である石渡文次郎氏が考案したもので、1931年頃にメニューに登場したとのこと。野菜を裏ごしせずに粒々感を敢えて残し、素材の旨味と食感を生かしているのが特徴です。家庭で親しみのある料理も、ここで食べるものはただ者ではありません。
また、途中で運ばれてくる現料理長 杉本雄シェフ監修メニューも楽しみのひとつです。今回は「トリュフ香るフォワグラおこげ」。トリュフの香りに包まれたソースとフォワグラが、おこげに染渡る絶品でした。
ブッフェテーブルはメインの料理、デザートコーナー、サラダとチーズのコーナーと三つあります。
それぞれのコーナーにはスタッフが常駐し、料理を取り分けてくれます。デザートのコーナーに立っていたのはコックコートを着たキッチンスタッフのようでしたが、おすすめのメニューの紹介や、説明が明確で、笑顔も絶えず職人さんらしからぬ接客の良さでした。座っているだけではなく、直接見に行くのも楽しいです。
ディナーでは、目の前でデザートを仕上げる炎のパフォーマンス、バイキングについての知識豊富なバイキングコンシェルジュも配置され、より楽しめるようになっています。このバイキングコンシェルジュも、帝国ホテルが発祥で2014年に始めたばかり。バイキングの楽しみ方、歴史、マナーなどを熟知し、お客様のお手伝いをしてくれます。
ブッフェの相場よりは少し高めですが、歴史と格式のあるホテルで、オーダー制、バイキングコンシェルジュなどの付加価値が付いていたら妥当ではないでしょうか。
訪れたのは日曜で、家族連れが多く2人組はちらほら。客層は富裕層が多いのではないかという印象です。
帝国ホテルは1890年に日本の迎賓館として開業し、去年2020年11月3日に130周年を迎えました。いくつもの新しいホテルが進出する競争下にあっても、そのブランドイメージと信頼は今でも廃れることなく、確立されています。
元祖御三家であり、歩んできた古い歴史の中で、戦争時代、大震災、バブル崩壊、リーマンショックと、幾度の危機を乗り越えてきました。バイキングは、1957年当時の社長 犬丸徹三氏が北欧の伝統料理「スモーガスボード」(スカンジナビア語で「パンとバターのテーブル」)の、好きなものを好きなだけ食べるというユニークなスタイルに着目したことから始まります。第11代料理長の村上信夫氏の料理研究の末、翌年8月1日に日本初のブッフェレストラン「インペリアルバイキング」をオープンしました。
「バイキング」という名称は、同じ年に公開された海賊映画「バイキング」から着想を得たもので、「北欧」という国と、「海賊」という豪快なイメージがマッチしたそう。今では「バイキング=食べ放題」の代名詞として全国に広まっています。
これまで体験したことのないようなコロナによる生活の変化を経験し、ホテルに対して人々が求めるものも少しずつ変化してきています。一方で、帝国ホテルなどの宿泊施設も、変化する消費者に対応すべく、長期滞在プランの販売など新しい試みを始めました。
長い歴史があっても従来のやり方に固執することなく、新しいことを取り入れて進化し続けていくことが今の帝国ホテルに繋がっているように感じます。抑圧されることでより強くなった人々の欲望をうまく取り込むためには、消費者の小さな変化をうまくキャッチしていく必要があるのではないでしょうか。
- [インペリアルバイキング サール]
- 朝食:大人4,400円/お子様(4 歳~12 歳)2,700円
- 平日ランチ:大人8,800円/お子様(同)5,300円
- 平日ディナー:大人12,100円/お子様(同)7,300円
- 土日祝ランチ:大人11,000円/お子様(同)6,600 円
- 土日祝ディナー:大人14,300円/お子様(同)8,600円
※すべて消費税込、サービス料別
※当面の間、朝食営業は休止
※2021年3月21日(日)まで月曜~木曜(祝日を除く)は休業中
著者プロフィール
麻生友美
1980年代生まれのマーケティングクリエイター。JMR生活総合研究所・クリエイティブマネジャー。
経験財を提供する様々な産業を経てクリエイターに。イラストを得意とした店頭コミュニケーションで実績があり、評判も高い。消費者説得の「こころのマーケティング」を目指している。
参照コンテンツ
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