多摩ニュータウンや大阪の千里ニュータウン、愛知県の高蔵寺ニュータウンに代表される20世紀の郊外ニュータウンは、在宅人口の激減と高齢化が進んでいます。例えば、多摩ニュータウンは1965年に新住宅市街地開発事業都市計画により街づくりがスタートし、1971年に完成した巨大なニュータウンです。しかしそこから半世紀が経過し、住民の高齢化、団地の老朽化やバリアフリーへの対応遅れなどの問題が顕在化しています。2015年の「多摩ニュータウン再生検討会議」では、ニュータウンのうち多摩市域の2050年人口は約7.5万人(2021年約9.8万人)、高齢化率は41%に上るとの試算が発表されました。一方、街づくりの特徴としては、京王線、小田急線、多摩モノレール線が乗り入れているターミナル駅多摩センターを中心に、近郊には商業施設や大学などの教育施設が立地しています。都市計画により住宅地を整備し、その周辺に商業施設を配置することが昭和のニュータウンの特徴のひとつです。
今回の流山おおたかの森は大きく三つの特徴があります。ひとつは多摩ニュータウンと異なり商業施設を核とした街づくりになっていることです。駅を基点にその周りを「おおたかの森S.C」や2022年4月27日に開業した「COTOE(コトエ)」、6月30日開業の「おおたかの森S.C・ANNEX2」など多くの商業施設が立ち並び、その周辺に住宅地が広がっています。イオンレイクタウンを中心とした越谷レイクタウン(埼玉県越谷市)、イオンモール浦和美園店と埼玉高速鉄道美園駅を基軸としたみそのウイングシティ(さいたま市緑区・岩槻区)も同じ特徴を持っています。
ふたつめは、多様な小売店が立地していることです。COTOEには低価格SMのロピアやディスカウント型ベビー専門店の西松屋、100円ショップのキャンドゥがテナント出店しています。おおたかの森S.Cにはイトーヨーカ堂食品館やデパ地下に近い品揃えをするタカシマヤフードメゾン、高級SMの紀伊国屋が入店しています。駅半径200m以内に低価格業態から中高価格業態までが揃った珍しいエリアです。
三つめは、子育てと街づくりがセットになっていることです。本文でも触れていますが、保育園の待機児童がゼロなど子育ての環境が充実しています。
おおたかの森は昭和のニュータウンとは違う21世紀型ニュータウンのモデルです。少子化が加速するなかで、今後は子育て環境と多様な小売業を起点とした街づくりが増えてくると思います。おおたかの森には、そうした今後の郊外ニュータウンの特徴を見ることができます。
今回はちょっと足を延ばして「つくばエクスプレス」に初乗車。コロナをきっかけに全国の市区の中で人口増加率トップ*1に躍り出た千葉県流山市の話題のエリアに行ってきました!
流山ってめちゃくちゃ遠いイメージだったから今回は駅前のサウナ付きホテルを予約してプチ旅行気分でのぞんだんだけど、なんと秋葉原から約30分で着いちゃってちょっとばかり拍子抜け。でも、たまには場所を変えてホテルに缶詰で原稿を書くってのもオツよね~ってことにして、大好きなサウナとルームサービスを満喫しながら売れっ子作家気分に浸ってみた(笑)。
ということで、今回取り上げるのは「流山おおたかの森」。「立川」に続き、またまたコロナで人気上昇中の千葉県流山市にある郊外タウン。つくばエクスプレス線の開通で開発された新しい街だが、ここがコロナ禍とほぼ同時にものすごい勢いで注目され、ものすごいスピードで人口を増やしているというのでやってきた。千葉県内では5年連続で人口増加率1位というから、千葉県で今最も人気の街といえる。つくばエクスプレス線と東武アーバンパークラインが乗り入れているのでアクセスは悪くはないが、都心までは結構な距離があるので実際の電車賃は安くはない。でも、コロナ禍でリモート出勤が当たり前になった今、交通費はさほど問題ではなくなったように思う。大事なのは、住んでいる街がいかに充実しているかということ。食をはじめとする日常の生活に関するものはもちろん、映画鑑賞や散歩など、趣味や休日の家族サービスといった自分が住んでいる街での日々の暮らしが滞りなく、いやむしろ行き渡りすぎるほど充実していたらどんなに幸せなことか。しかも、そこに子育て支援が加わったら、そりゃもう人気急上昇になるのも頷けるわけだ。そんなわけで、最近の流山市には30~40代の子育て人口が急増しているらしい。流山市が目指す街のイメージ「都心から一番近い森のまち」に掲げる「母になるなら流山市」のキャッチコピーがバッチリハマっているといえるのだ。っていうか、この言い切り型のキャッチコピー、自信満々ですごいよね。ここまではっきり宣言されると、住むしかない!って思っちゃう。確かに、郊外だからマンションも戸建てもある程度の広さがあるし、新しい街だから子育て支援も充実してるし、歩道も広くてベビーカーも歩きやすい。さらに、駅前には「流山おおたかの森S.C(ショッピングセンター)もあるし、学習塾やクリニック、保育所、スポーツクラブなどが入る複合施設もある。ちょっと歩くと大きな公園もあるし、私が今回泊ったサウナ付きの「ホテル ルミエール グランデ流山おおたかの森」や文化芸術活動が展開できる多目的ホール「スターツおおたかの森ホール」も並んでいる。そのほとんどが駅を中心に東西南北に配されているのも、実に便利でわかりやすい。
「流山おおたかの森」駅南口から直結のペデストリアンデッキでわずか1分ほどにあるのが日本橋高島屋S.Cや玉川高島屋S.Cが運営するショッピングセンター。本館と別館「ANNEX(アネックス)」と「FLAPS(フラップス)」の3棟からなる大型複合施設だ。館内には、「タカシマヤフードメゾン」「イトーヨーカドー食品館」や「紀伊国屋書店」「流山ロフト」「ウニコ」といった二子玉川タカシマヤに吸い寄せられる二子玉マダムが好きそうな店舗をはじめ、千葉県内最大級のワイドシートがある大型シネコン「TOHOシネマズ流山おおたかの森」も。オシャレなカフェなどの飲食店もなんと140店もあるというから、休日も一日中楽しめちゃうのだ。ここまで書いてふと思ったんだけど、ここってやっぱり二子玉川タカシマヤS.Cにそっくりだよね。二子玉のタカシマヤS,Cが誕生した時の賑わいはマジで半端なかった。テレビでは連日高そうなベビーカーにブランド服を着せた赤ちゃんを乗せて、ショッピングセンターを優雅に歩くセレブママの姿を何度も放送してたなぁ。かくいう私も、その番組を書いた一人だけどね(笑)。ああいうセレブママもコロナ禍後はとんと見なくなったよね。それに運営が同じだからショッピングセンターの雰囲気もそっくりだけど、流山の方は歩いてるママたちがセレブじゃなくて普通なのが好感持てるね。そう思うと、街は人が作り上げるもの、ということをつくづく実感する。
別館「ANNEX(アネックス)」には、郵便局や家電量販店「ノジマ」などが入り、生活必需品にはことかかない。また、昨年春にオープンした「FLAPS(フラップス)」は、100%再生可能エネルギー由来の電力を使用する環境に配慮した施設で、こちらはオシャレな店舗やファミリー向け施設が集結している。デンマークの雑貨ブランド「フライング タイガー コペンハーゲン」やイギリスのチョコレートブランド「ホテルショコラ」などといった有名ブランドの旗艦店が入っているだけでなく、幼児教室やバレエ教室、親子の遊び場なども充実。このラインナップをみると、この街に暮らすママたちもどうやら普通ではなさそうだ。ということで前言撤回。ちょっぴりリッチな民度高めのママたちとしておくことにしよう。人口増加中だから、今後そういうママたちがどんどん増えていき、そのうち流山マダムなんて呼ばれちゃうかもなぁ。と思うと、なんだかちょっと悲しい気もする。
そもそも、駅名になっている「おおたか」とは、準絶滅危惧種に指定されている稀少な鳥の名前。流山市の鳥にもなっている。そのオオタカがいる「市野谷の森」は駅から10分ほどの近さにあり、「おおたかの森」と呼ばれている。その広さは東京ドーム5個分というから、駅近に大きな森があること自体、稀なこと。まさに「都心から一番近い森のまち」そのものだ。こんなところでのびのび子育てしたら、きっと情緒豊かな子が育つんだろうな、なんて思いながら未来に一筋の希望を感じたりした。余談だけど、最近ちょっとした昭和ブームがきてるのをみてると時代は巡るものなのだ、ということを実感する。若者にレコード好きが増えたり、昭和レトロな家電やファッション、歌謡曲なんかが流行っているのは、つまりはいろんなことが便利に合理的になりすぎたことへの飽きというか嘆きというか...。いろんな意味への結果だと思うのだ。ちょっとたりないくらいが丁度いい。子育ても完璧を求めるより、自由にのびのび育てていた昭和の子育てぐらいが丁度いいのかもしれない。もしかしたら、最近の子育て世代は子供にとってなにがいいのかをとっくに知ってて、この街に住み始めているのかもしれない。そんなことさえ思ってしまう。
そしてもうひとつ。おそらく子育て世代が流山市に移り住む最大の理由だと思うのが、保育園の待機児童がゼロ(令和3年)だということ。流山市は共働き世帯には最高の環境なのだ。しかも認可保育園の数が100園もあるうえ、送迎保育ステーション制度というのを導入している。これは、保育園と自宅が離れている場合、駅などを拠点とする送迎保育ステーションまでバスで送迎してくれるシステム。働く親にとっては有難い制度だ。また駅周辺には、複数のクリニックも揃っているので仕事帰りに子供を連れて立ち寄るのもスムーズ。親にとってはこの上ないストレスフリーなのだ。そんな素晴らしい制度を実施する流山市の行政もまた素晴らしいのだ。
例えば、子育て情報配信専用LINE「ながれやま市子育てちゃんねる」では、児童館でのイベントや子育て支援施設などの情報を配信している。他にも「おもちゃ病院」や「ひとり親福祉会」などの多種多彩な制度や交流会を行っている。もちろん、助成金などもしっかり用意されているので、流山市は間違いなく子育てに力を入れている素晴らしい行政だといえる。いや、しかしこんなに素晴らしい行政もあるもんなんですね~。流山市の行政を知ると日本も捨てたもんじゃないと心から思う。そんな行政の努力とコロナの追い風で、流山市のファミリー層をターゲットにした街づくりはかなり完成形に近づいているといえる。
利便性も環境も申し分なし。これから子育てする人も今まさに子育て真っ最中の人も、流山おおたかの森という街がきっとアナタたちの大きな味方になってくれる、流山おおたかの森はそんなことを心から思った街だった。
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
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シリーズ「移動」のマーケティング
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