今回とりあげる中野は、サブカルチャーの聖地として知られています。アニメや漫画などとコラボするブランドも増え、サブカルへの注目度も高まっています。
今年発売50周年を迎える日清食品のカップヌードルは、国内売上1,000億円以上と日本有数のブランドです。サブカルチャーを上手く使いブランドを飽きさせない、陳腐化させない工夫を施しています。例えば、「HUNGRY DAYS」シリーズでアニメ「ONE PIECE」とのコラボSNSは、2日間で同社史上最多の1,500万回再生を突破しました。現在はアニメ「プロジェクトセカイ」とのコラボを展開して、話題を提供しています。
日清食品のブランドづくりのポイントのひとつとして「今はサブカルが中央に来る時代。サブカルを面白おかしくど真ん中にもっていくのも日清食品のやり方」(日経トレンディ・クロストレンド・2019年9月24日)と安藤社長は語っています。話題のサブカルを上手く取り込むこともブランドを活性化する工夫のひとつです。
ブランドの重要性は格段に高まっています。例えば、ビールでブランドを重視する人は65%、アイスは50%、スマートフォンでは71%です(「消費社会白書2022」より)。コロナ禍においてブランドの活性化は重要なマーケティング課題になっています。
中野ブロードウェイを中心とした中野エリアは、サブカルを理解する上で非常に重要な街です。今回は、この中野の特徴をご紹介します。
昨今、消費者の動向は出向いて買い物をする時代から、自宅にいながらポチっとショッピングをする時代へとシフトチェンジしている。withコロナになり、その傾向はますます強くなってきた。そんな状況下でも外へ出かけ買い物をしようとする消費者、それが明確な目的をもった特定多数の消費者だ。欲しいものがあり、それを実際に手に取って見たい、見極めたい、という特定多数の消費者は、どんな状況になろうとも消えることはない。日常の生活がwithコロナになるであろう今後は、ことに都心部での特定多数のニーズを踏まえたエリアマーケティングが大きなテーマになってくると思われる。
今回はまさに、その特定多数の消費者が足を運ぶサブカルタウン「中野」を取り上げる。中野は「中野サンプラザ」や「中野ブロードウェイ」を擁するサブカルの聖地として知られているが、コロナ禍以前は、都内有数のインバウンドタウンとしても賑わっていた。中央線沿線で、新宿からわずか5分の隣駅。総武線や東京メトロ東西線も利用できるアクセスの良さも人気の要因のひとつだ。そんな中野で今、100年に一度といわれる大規模な再開発が行われている。駅北口のペデストリアンデッキ(空中歩廊)の先にある「中野セントラルパーク」を皮切りに、その周辺でとんでもなく大がかりな再開発が進行中。2029年の完成に向け、中野は不動産、新規事業、店舗展開など、様々な分野で間違いなく注目エリアになるはずだ。サブカルと個性的な飲食が集まる北口、オシャレ化が進む南口、そして再開発で新たに誕生する西口。
10年後、ただのサブカルタウンからアカデミックでグローバルなサブカルシティへと生まれ変わる姿を想像しながら、中野の今を紹介していく。
今回は、中野在住4年の私から見た中野の魅力を紹介しようと思う。書きたいことはたくさんあるが、中野に移り住んで、まず驚いたのが駅の使いやすさだ。中野駅には、「中野ブロードウェイ」がある北口とオシャレな「レンガ坂」や中野に本社を持つ「マルイ」がある南口がある。この二か所の改札をJRと東京メトロが共有。しかも、北口と南口を結ぶ通路に並行して並ぶホームへの昇降にはすべて階段とエスカレーターが設置されているため乗降もかなりスムーズだ。都心の駅の中では群を抜いて利便性の高い駅だと思う。疲れない、迷わない、時間がかからない。駅構内をストレスフリーで移動できる最高の構造になっているのだ。駅北口を出てすぐ左手にあるエスカレーターを上れば、中野サンプラザを臨むペデストリアンデッキがあり、その先には最初の再開発である「中野セントラルパーク」が広がる。出来た当時は、大層な名前を付けたものだと一笑したが、いざ行ってみると、ちゃんと緑豊かでのんびりした雰囲気を醸しているから大したものだ。中野の中心にあるパークだから、意味も間違ってない。このセントラルパークが誕生してから周辺には、早稲田大学、明治大学、帝京平成大学といった大学やキリン本社、警察署、病院などが集まり、街のイメージがグンとアップ。公園にはオシャレな飲食店やBBQスポットも連なっているので、テラスでランチしたり、犬の散歩をしたり。休日を楽しむ人たちも、どことなくニューヨークっぽくみえてくるから不思議だ。そんな再開発成功例の「中野セントラルパーク」に次いで、今度は新たに「中野区役所」と「中野サンプラザ」を擁する中野駅新北口駅前広場を誕生させる予定。中野は、いよいよ次のステージへと歩み始めたのである。
都民なら「中野サンプラザ」を知らない人はいないはず。昭和から多くのアイドルや歌手のコンサートなどが行われてきた歴史あるホールだ。ここ2~3年、中野サンプラザがなくなる!というニュースやつぶやきがささやかれていたが、その真相は謎のままだった。しかし、ここにきて、ようやくその全貌が見えてきた。中野区は2021年、中野駅新北口駅前エリアの再開発の提案書を提出。"文化を原動力とした中野100年のまちづくり"をスタートさせたのだ。その目玉として、老朽化した中野サンプラザを最大7,000人収容の大ホールに整備。デザインなどは、ランドマークとしてのサンプラザの形態を残しつつ生まれ変わるのだという。さらに、新たにオフィスとレジデンスが入るシンボルタワーを隣接させ、「NAKANOサンプラザシティ」として構成。2階レベルには、南北をつなぐスカイデッキを設置し、北口と南口を自由に行き来できるようにする上、新たに西口を誕生させる予定。また、このスカイデッキは「文化の交差点」とし、中野特有のサブカルやアニメなどの様々な文化の発信地にしていく計画もあるようだ。生まれ変わっても、サブカルの誇りを忘れない中野の心意気を感じる。この新北口駅前広場の完成は2029年を予定。8年後、中野駅前に現れるクールな「NAKANOサンプラザシティ」の誕生が今から待ち遠しい。
新北口の大規模な再開発を横目に、中野通りを挟んだエリアに広がるのが、竹下通りと見間違うほどの人で溢れかえる「中野サンモール」。北口から雨に濡れることなく「中野ブロードウェイ」へと続く全長224mの商店街だ。このチェーン店や個人商店が軒を連ねる「中野サンモール」を「中野ブロードウェイ」だと思っている方が多いようだが、この商店街の終わりに現れるのが「中野ブロードウェイ」の入り口。いわば、中野サンモールは、本殿へ向かう参道のようなものなのだ。その中野サンモールから入る脇道には、「一番街」「二番街」「三番街」といった路地の商店街や、「ふれあいロード」「昭和新道」などの通りが密集しており、たくさんの小さな店がひしめき合い、どこをどう歩いているのかわからなくなるほどゴチャゴチャしている。北口の路地は、日本アカデミー賞作品賞と主演男優賞に輝いた「ミッドナイトスワン」で草彅剛さん扮する凪沙が住む町のロケ地にも使われた。凪沙が働く新宿への通勤時間や、どんな人も排除しない雑多な雰囲気なども含め、映画にリアリティをもたらしていた中野北口のカオス感の功績は非常に大きい。昭和感漂う雑然とした感じなのに、飲んだくれるおじさんばかりがいるわけでもない。若者もサラリーマンも、小綺麗な女子もロック兄ちゃんも仲良し熟年カップルも、LGBTも。とにかくいろんな人種が人目を気にせず楽しそうにしている。それが、なんとも心地いい。とにかく、ビックリするほどお店があるので、ここの便利さを知ったら他所には暮らせないな、と思ったりしている。
そして、本殿ともいえる「中野ブロードウェイ」。今や世界中で知られるサブカルの聖地だが、本来は55年前に建てられた高級アメリカ型マンションだ。あまり知られてないが、今も5階から10階はレジデンスで、屋上にはプールや遊具や芝生もある。今はかなり老朽化しているが、かつては青島幸男、沢田研二、志村けんなどの有名人も住んでいたと噂されるハイグレードマンションだった。そして、1階から4階までは、皆さんご存じの通り、「まんだらけ」を始めとするヲタクグッズのお店が軒を連ねるサブカルの館。そこに混在するように、古くから営業する飲食店や医院、洋品店などが入っている。地下1階の鮮魚店や精肉店、スーパー、飲食店は、さながら庶民派デパ地下とでもいっておこうか。幾度となくテレビで取り上げられている高さ自慢のソフトクリーム屋さんも健在だ。
北口に比べると落ち着いた雰囲気がある南口。最大の特徴は「マルイ」の存在だ。中野には、百貨店的なものはマルイしかないが、実はマルイは中野が発祥なので、ここはただのマルイではないのだ。そのマルイのすぐそばに出来たのが「レンガ坂」。ヨーロッパの路地を想像させるオシャレな通りに、グルメなお店が建ち並ぶ話題のエリアだ。そのレンガ坂のおかげで注目され始めている南口でも、同じく再開発が進んでいる。駅前には、高さ120mの20階建てのオフィス棟と高さ150mの37階建ての住宅棟のツインタワーが誕生する予定。おそらく私だけだろうが、雑多な北口は香港の旧市街地「九龍」、斉一な南口は新市街地「香港島」をイメージしてしまう。
withコロナが当たり前になると、家時間の過ごし方が変わり、好きなことや好きなものへのこだわりがさらに強くなっていくことが予測される。サブスクで映画やアニメを見る人が増えると、サブカルチャーはもっと身近なものになっていくことだろう。そんな根強いマニアが街に活気をもたらしているサブカルタウン中野が、今後の再開発でさらに魅力的になれば、もはや他に適うものなし。駅前再開発完成に向け、ビジネスチャンスをはじめ、多くのメリットが待ち受けている中野の近未来は、ヲタクならずとも想像するだけでワクワクする。
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
- 入国制限解除後の欧州の今と観光ビジネス考察(2023年)
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参照コンテンツ
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- MNEXT 眼のつけどころ 市場脱皮期の富裕層開拓マーケティング―価格差別化戦略(2021年)
- プロの視点 消費反発の現場を探る 帝国ホテルのブッフェから(2021年)
- オリジナルレポート コロナ下とコロナ後の消費の展望(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ 20年後の東京をどうするか?―新しい消費文化の形成(2017年)
- 戦略ケース 都市再生法によって加速する 東京発マーケティング革新(2002年)
- 戦略ケース 百貨店の明暗を分けるブランド消費-百貨店の復活は本物か?(2001年)
シリーズ「移動」のマーケティング
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- 変わる家族と駅の役割
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