2030年には東京の大型再開発が進み、人の流れが大きく変わります。27年竣工の三菱地所グループが推進する「トウキョウトーチ」「トーチタワー」(大手町)」や、23年竣工の森ビルが手掛ける330mの高層ビルと日本最高層のタワーマンションからなる「虎ノ門・麻布台プロジェクト」、29年に新宿の小田急百貨店の建て替えによる新宿駅西口の再開発など多くの再開発が計画されています。特に虎ノ門周辺や東京駅・日本橋・日比谷周辺の大規模計画が多く、この周辺に人が集中し新たな市場が生まれます。
埼玉県民の玄関口といわれている池袋・豊島区も大きく変わろうとしています(「池袋編」参照)。22年5月、東池袋に「Hareza池袋」がオープンしました。コンセプトは「『八つの劇場』」から1,000万のきらめく物語がうまれるまち」です。いたるところでアート作品が展示され、まち全体がひとつの劇場となりアートやカルチャーを経験できる場所です。豊島区が将来像として掲げている「国際アート・カルチャー都市構想」の中のひとつだと捉えることができます。
大塚駅周辺は「国際アート・カルチャー都市構想」を実現する取り組みのひとつとしての「豊島区アフター・ザ・シアター」の役割を担っています。これはアートやカルチャーを観劇、鑑賞した後もその余韻を楽しめる場と仕組みづくりです。
大塚駅北口再開発では、本編でとりあげている星野リゾートの「OMO5」と豊島区が連携して街づくりを行っています。例えば、OMO5の近くでは「OMOレンジャー」が大塚の魅力を独自に発信。大塚駅周辺は先述した大型再開発とは異なる行政と民間が議論して連動して役割を果たしながら、昔ながらの良さと現代的な良さが混然一体の街づくりになっています。
今後、東京でのエリアマーケティングを展開するには、大型再開発だけでなく、大塚やその隣の近年若者にも人気のスポットになっている巣鴨なども注目することができます。大塚の事例からは、大型再開発とは異なる街づくりのポイントを見ることができます。
星野リゾートの新ブランド「OMO5 東京大塚」の誕生で街も活性化!かつては池袋より栄えていた花街に新たな名酒場が続々進出中です。「本当の東京を感じられる場所」大塚の今を歩きます!
今回取り上げる街は「大塚」。ここのところ、郊外の街を立て続けに書いたので、そろそろ都心部に行きたくなったので。都心部というと、新宿、渋谷、池袋なんかをイメージすると思うけど、実は「大塚」って池袋の隣駅なんだよね。しかも、かつては池袋より栄えていたらしい。だから、パッとしないけど一応都心部。そんなほぼ都心部の穴場タウンを見逃さなかった目ざとい企業が4年前に大塚に進出してきた。かの一流ホテル「星野リゾート」だ。同時にここ30年ほど全く変わり映えしなかった「北口商店街」も再開発により古民家などをリノベーション。ちょっとレトロ感を残す「東京大塚のれん街」として再生した。そのすぐ近くに星野リゾートが新ブランド「星野リゾート OMO5 東京大塚」を誕生させたというわけだ。
「星野リゾートOMO5 東京大塚」は「OMO5」と書いて「おもふぁいぶ」と読む。施設により名称の解釈は様々らしいが、大塚の場合は「おもいがけない仕掛けとサービスで、おもてなしの心にあふれた、おもわず笑顔になる、おもしろい都市観光ホテル」と定義しているそうだ。いやはや、ここまで「OMO(おも)」を並べたんなら、どうせなら「お」のあいうえお作文にして欲しかったな。「おもいがけない仕掛けと、おもった以上のサービスで、おもてなしの心にあふれた、おもわず笑顔になる、おもしろい都市観光ホテル」ってのは、どうかな?(笑)。ま、そんなことはさておき。「OMO」とは星野リゾートが都市観光のテンションを上げる都市観光ホテルとして立ち上げた四つめの新ブランドの名称。都市観光に最適な立地で、地域の観光をサポートする「ご近所を楽しむ感覚」のホテルなんだそうだ。価格は7,000円~とビジネスホテル並みだが、そこに前述した定義が乗っかってくるから、ホテル自体にユニークな仕掛けが施されているし、旅先を存分に楽しんでもらうためのディープな地元情報までサポートしてくれる至れり尽くせりのホテルなのだ。地域活性化の一翼も担っている。
「OMO5 東京大塚」の一押しは、スタッフによる「ご近所専隊OMOレンジャー」。街を知り尽くしたOMOレンジャーがお散歩からディープスポットまでガイドしてくれる心温まるツアーを毎日開催するらしい。どうやら「OMO5 東京大塚」のスタッフはダジャレ好きのようだが、そこもまたいい。さらに、ホテル内には「ご近所マップ」を掲示。壁一面に貼られたマップからガイドブックに載っていないリアルでレアな情報を収集することが可能。さらに、街歩きの一休みにピッタリのパブリックスペース「OMOベース」では、ゆったりとした気分で旅のリサーチができるというのだ。余談だが、「OMO5 東京大塚」の隣には、あの有名なおにぎり屋さん「ぼんご」がある。撮影に行った日も30人は並んでいただろうか。空気を入れながらふわっと握る特別なおにぎり。その職人技を一度口にしてしまったリピーターたちが毎日後を絶たないのも頷ける。都内有数の名店の隣にオープンするあたりも、さすが!星野リゾート!というしかない。
このOMOブランドは現在、全国12施設で展開中。OMO1,3,5,7という奇数の4タイプでホテルタイプを表わし、自分の目的に合った施設を選べるのだという。「OMO1」はミニマルな旅の拠点「カプセルホテル」(ガイド&マップつき)。「OMO3」は「ベーシックホテル」(朝食&ガイド&マップつき)。「OMO5」は街の魅力とデザイン性重視の「ブティックホテル」(ほぼフルサービスつき)。「OMO7」は充実のおもてなしが受けられる「フルサービスホテル」(フルサービスつき)。ちなみに、大塚と同じ「OMO5」は他に小樽、金沢片町、京都祇園、京都三条、沖縄那覇で展開しているそうなのだが、このラインナップをみる限り、大塚のOMO5入りはかなりの番狂わせだ。OMO5東京代表になりうる街は他に山ほどあるだろう。銀座、浅草、日本橋、表参道、恵比寿、下北沢...チラッと考えただけでもどんどんでてくる。はてさて、なんで大塚?!星野リゾート代表の星野氏によると、「大塚は本当の東京を感じられる場所」と定義。確かに、隣りにキーステーションの池袋があるゆえ、悪く言えば取り残された街、よく言えば昔からの商売が続く人情タウンといえる。やっぱり成功者の発想はとてつもないなぁ...。いや、ちょっと待てよ。さすがに発想だけでビッグビジネスを展開するはずはないんじゃないか?ってことで、いろいろ調べたらありましたよ!大塚には成功の土壌がちゃんと。
今更だが「大塚駅」は山手線の駅のひとつではあるが、山手線ゲームでもなかなかでてこない街である。でも実際に降り立つと、程よい都会感の中に漂う懐かしい空気感があったり、意外にも美食スポットだったりと、なんだか計り知れない魅力を感じる。大塚は路面電車・都電荒川線(さくらトラム)が走る街。1両編成のバスみたいな車両が、早稲田―三ノ輪区間を往来する。AIだのVRが身近なこの時代を頑張って走り続ける可愛らしくも儚げな電車を見る度に、昭和世代の私はなにやら安堵とともに妙な切なさを覚える。
この都電の「大塚駅」から「向原駅」までの線路沿いには、たくさんの種類のバラが植えられていることから「南大塚バラロード」と呼ばれている。色とりどりのバラがほぼ一年中、車窓にも街にも華やかな美しさを添えているが、その陰には悲しい過去があったのだという。実はかつて、この線路には自転車やバイクなどの不法投棄が多く、まるでゴミ捨て場状態だったらしい。そんな醜い姿を改善しようと、2008年に南大塚都電沿線協議会が発足。早速、ゴミ拾いを始めたところ、なんとゴミの下に埋もれていた100本ものバラの根が出てきたというのだ。以前、豊島区が美化のために植えたものだったらしいが、約30年もの間、誰にも知られずにゴミの下に隠れていたらしい。以来、協議会による四季咲きのバラの植樹が始まり、今では700種1,190株のバラが年中見事な花を咲かせている。この取り組みは各方面から高く評価され「全国花のまちづくりコンクール」など数多くの賞を受賞しているそうで、今後はこのバラロードをさらに延ばすのが目標だという。こういう前向きで心優しい住民がいることそのものが、まずは第一の成功の土壌と言える。
そして、第二の成功の土壌。それは歴史を戦前まで遡る。かつて、大塚は都内でも有数の三業地だった。三業とは「料理屋」「待合(お茶屋さん)」「置屋」の三業態のこと。大塚は東京の城北エリア最大の三業地だったのだ。大塚駅前ロータリーの東側の細い路地に今もひっそりとある「大塚三業通り」というシンボル灯を目印に入るとすぐに、病院(性病科)、連れ込み宿(現ラブホテル)、老舗のうなぎ屋さんが並ぶ。さらに蛇行する通り沿いには料亭や鮨屋がちらほら。道すがらの電柱には住所を示す「三業」の文字。大塚三業通りには、今も花街の名残がそこここにある。
大塚三業地の歴史は大正11年、「待合」が許可されたことから始まったという。その当時は待合18軒、料理屋85軒、芸妓は約200人もいたそうだ。置屋から聴こえる三味線の音色、忙しそうにすれ違う白衣の料理人、夕暮れ時になると色香を纏ってしなやかに歩く艶っぽい芸妓。三業通りを歩いていると、ふとそんな当時の賑わいが脳裏に浮かぶ。三業地としては昭和一桁時代がピークだったようだが、第二次世界大戦の東京大空襲でそのほとんどが焼失してしまったのだそうだ。それまでは池袋より賑わっていたらしいが、戦後、池袋に闇市が出来たのを機に立場が逆転したらしい。とはいえ、大塚三業地の花街としての賑わいは保っていたようだが、昭和30年代頃の高度成長期をピークに時代の変化とともに衰退。今では置屋も芸妓もほとんど見なくなってしまった。しかし、美味しい料理屋は今もちゃんとある。もともと花街には名料理店が多いから、自然にレベルの高い店が集まってくるのだろう。元料亭が小料理屋になっていたりするのだ。今でも芸者を呼べる老舗割烹「松し満」で、ご主人から華やかな三業時代の話を聞きながら盃を傾ける。そんな粋な宴もなかなかオツだ。
そして大塚駅北口から1分、前述した「OMO5大塚」のすぐそばにある「東京大塚のれん街」。東京大塚でサンセバスチャンと謳うのれん街には、日本の旨いもの全種を厳選したような10軒のお店が1軒ずつ独立した形で点在している。一棟のビル内に集結する形はよく見るけど、こんな風に個性的な戸建ての店が隣り合い集まっているのは珍しいんじゃないかな。そんなところも大塚っぽい。withコロナが定着した今、人混みをさけていい酒を飲みたい人にとって、大塚はまさに穴場中の穴場なのだ。時代は巡るから、また大塚と池袋が逆転することもあるかもね。
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
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参照コンテンツ
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- 戦略ケース 都市再生法によって加速する 東京発マーケティング革新(2002年)
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シリーズ「移動」のマーケティング
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