エリアマーケティングは人の流れを見極めて、攻略エリアを決め、集中し、エリアシェアを高めることが肝です。コロナ禍以前では都市部の小売店の集客力が高く、都市部好立地を巡る競争が激化していました。しかし、コロナ禍によりリモートワークが定着し、人の移動が変わり、好立地が「郊外・住宅街エリア」に変わってきています。
大手ドラッグストアの2021年の既存店売上高対前年同月比をみると、都市部での出店が多いマツキヨやココカラは9か月も前年を下回っています。一方で郊外地域での出店が多いウエルシアでは前年を下回ったのは2か月だけです。出店エリアによる明暗がはっきりしています。
今後のエリアマーケティングのポイントは、従来の都市部から郊外・住宅街エリアに変わってきます。この象徴的なエリアが今回取り上げる「立川」です。立川市の人口は18万4,090人(前年比100.1%)、世帯数は92,288世帯(同101.1%)です。商業年間販売額は798,879百万円、東京で同じ人口規模の日野市の3.8倍です。東京には立川市のほかにも八王子市、町田市、多摩市、武蔵野市などの成長している郊外・住宅街が複数あり、今後エリアマーケティングを展開するにはこれらのエリア攻略が課題となります。立川の事例には、ターゲット層、生活スタイルなど郊外・住宅街エリア攻略のヒントがあります。
通勤ラッシュ解決のため、国が「時差Biz」を提唱したのが2017年。確かに、コロナ禍以前は通勤ラッシュによるストレスの緩和が当面の課題だった。高度成長期以降、国の経済効率をあげるために人口を都市に集中させた結果、東京に一点集中してしまったのも原因のひとつ。かつては、お父さんが働きに行き、お母さんは専業主婦という家庭が多かったから、住まいもお父さんの職場に通いやすい場所か職場の近く、というのが当たり前だった。しかし、その場合、会社の近くは地価が高いからマイホームを建てるのは夢のまた夢だし、賃貸でも都心部の家賃は当然高くなる。ならば、職場の近くは諦め、職場に通いやすい場所に住もうということで、地価や家賃を考慮した結果、職場から1~2時間で通勤できる郊外の街に住むファミリーが増加したというわけだ。が、その代償として通勤ラッシュという地獄の日々が始まったのだ。世のお父さんたち(今は通勤する人)は、長きに渡りこの通勤地獄と日々闘ってきたのだ。
しかし、このように職場と自宅が離れた「職住分離」は、通勤のストレスが増えることで仕事の効率が下がり、プライベートの時間の確保も難しくなる、というデメリットが多いことから、国は「職住近接」を提唱。自宅と職場の距離を近くにすること、通勤時間を短くすることを前提に、職場と住まいのバランスを取りながら、ゆとりある生活をおくろう!という提案を打ち出したのだ。だが、それはそれで、家賃が高かかったり、プライベートとの境界がつけにくかったりといった難しさが露呈した。
そんな折に出された新たな提案が、通勤時間を改善することに的を絞った、いわゆる「時差Biz」。時差出勤することで、通勤ラッシュで苦しむサラリーマンのストレスを軽減しようという試みだ。一部の電鉄では早朝から本数を増やすなどの工夫もしたが、その成果は賛否両論。早起きが苦痛ではなく、朝の時間を有効活用しようとする人には概ね好評だったが、接待やつきあいが多い夜型人間にとってはなんの解決にもなっていなかったようだ。
結局、「時差Biz」も中途半端だし、「職住分離」と「職住近接」もどっちつかずのまま揺れ動いている時に、突然なんの前触れもなくアイツはやってきてしまったのだ。そして、そのわけのわからない疫病は、それまでの世の中の当たり前をいとも簡単に変えてしまったのだ。通勤ラッシュと闘いながら、毎日かかさず職場に出勤していた日常がなくなってしまったことで、「時差Biz」も「職住分離」「職住近接」問題もあっさり解決してしまったのだ。それどころか、この四字熟語みたいな漢字も何だかちょっとオシャレな響きの「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」「テレワーク」という新しい言葉にとって代わり、すっかりWithコロナのルールが定着した。結果的に「時差Biz」するまでもなく通勤地獄から解放されたのは、まぁ、いいとして・・・。この「テレワーク」の普及こそが、冒頭に書いた23区からの転出者増加につながったのだといえる。
完全なテレワークの企業ではない限り、多くの企業は週に何日かは出勤する必要があるが、毎日通わなくていい分、「たまの通勤なら多少時間がかかっても問題なし」という考え方にシフトチェンジする人が増えてきたように思う。そればかりか、昔は家賃面などから仕方なく暮らしていた郊外に、コロナ禍後は望んで転居する人が増えているらしい。つまり、無理のない「職住分離」でありながら、「テレワーク」により自宅が職場になるという「ステイホーム」な「職住近接」を経験したことで、仕事優先からプライベート充実志向へと変わり、「職住分離」と「職住近接」の混合型という新しい形にスポットが当たり始めたんじゃないかなと思う。
転出先は、神奈川、千葉、埼玉といった首都圏の県が人気だが、注目すべきは都心へのアクセスが便利な東京の郊外タウン。中でも、再開発でオシャレタウンへと変貌を遂げた「立川」は、賃貸や地価のコスパ的にもオススメの街として人気を集めている。特筆すべきは、JR中央線なら新宿まで乗り換えなしで35分というアクセスの良さ。それなのに、立川市内には国営昭和記念公園という広くて開放的な公園もある。そして最大の魅力は、何でもそろう便利なコンパクトシティだという点。駅から徒歩5分圏内に伊勢丹と高島屋がある街なんて、まずない。なんなら、その2大百貨店が隣り合っていることを考えると、本家新宿よりよっぽど便利だといえる。
巨大駅ビルにいくつもの大型商業施設、再開発したオシャレなストリート「グリーンスプリングス」。そこに誕生したキレイな劇場や映画館などなど。映画館に至っては、4館を有する街は、銀座、渋谷、新宿、池袋に次ぐ多さなのだそうだ。さすがは、かつて「映画の街」と言われただけのことはある。さらに、中央線カルチャーを彷彿させる「立川まんがぱーく(まんが図書館)」や場外馬券場といった個性的な施設があるうえ、極めつきは先述した国営の昭和記念公園まで。この公園、そこいらの公園とは規模が違う。なにしろ、園内には可愛らしい機関車フォルムのバスは走るし、レンタサイクルも充実している。「立川口」からなら、入園せずとも遊べる広場があるが、入園(入園料は大人450円、中学生までは無料)する場合は、駅のすぐ目の前が入り口なのでお隣の「西立川駅」下車がオススメ。入ってすぐ左側にあるレインボープールは、首都圏最大級の本格的レジャープールなのに、中学生までは1,200円(大人2,300円)という驚き価格で利用できる。そんな魅力的な施設を擁する街だから、コロナ禍後の住宅購入などの視点からもトップクラスになったのだといえる。
では、ここからは2020年4月に開業した立川の新街区「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」について詳しくご紹介しよう。グリーンスプリングスは、在日米軍立川基地の跡地である国営昭和記念公園東側に整備した新しい街。立川駅から徒歩8分ほどで、その街は現れる。そこには、多目的ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN(立川ステージガーデン)」や「ソラノホテル」、映画館、「IKEA立川」などが建ち並ぶ。すぐ近くには「伊勢丹」や「高島屋」や「ビックカメラ」があるので、この界隈のみでどんな買い物も事足りる。ちなみに、立川ステージガーデンは、多摩地区最大の255席規模の次世代型ホールとして話題を集めているのだが、実は私は昨年末、とあるライブを観にここを訪れた。まず、立川駅に降り立った瞬間、その想像以上の都会っぷりに驚かされた。しかも、駅にはペデストリアンデッキが整備されているので、移動もスムーズ。伊勢丹でちゃんとした楽屋差し入れも購入できたし、イルミネーションに包まれた街を気持ちよく歩いているうちに、あっという間に「立川ステージガーデン」に到着した。目の前に現れた、なんとも開放的で真新しい劇場にワクワクしつつ中へ入ると、ホールの造りも席の座り心地も、そして音響も申し分ない最高のホールだった。いい会場でいいライブを観る時間はまさに至福のひとときだった。
最後に、立川をコスパ最高の街と言わしめている一番の理由、家賃についても書いておく。立川駅周辺のワンルームの平均相場は5万円代。新宿駅が約9万円というから約6割の家賃になる。隣接する国立市を中心とした立川周辺エリアは、国立音楽大学や一橋大学などを擁する学園都市でもあるので、新宿に通勤するシングルのサラリーマンはもちろん、学生にも住むにはこの上ない立地だと思う。さらに、ファミリー向けの広さとなると、その差はより歴然。家賃的にも広さ的にも、環境的にも超オススメの街だといえる。ファミリーにとって、駅から徒歩圏内に「国営昭和記念公園」があるのは、もはや特典のようなもの。大人は、ランニングやスポーツなどをすれば健康増進になるし、子供は国営「レインボープール」に行けば、超破格で夏を満喫できる。さらには、花火などのイベントや季節ごとに咲き誇る花々を愛でれば、精神的にもリラックスした日々を送れるはず。子育て支援もかなり充実しているので、生活面からみてもかなり良い街なのである。
そして、ふと気づいたんだけど、立川はある意味、リタイア後の年金暮らし生活者にもお勧めの街なのかもしれない。家賃は安いし、一つの街ですべて事足りるし、シニア価格で映画三昧できるし、大きな公園を散歩すれば健康的な生活ができるし、なにより、そのすべてがコンパクトにまとまっているし。うーむ。いいことしかないな。コロナで急浮上した街だけど、これは終の棲家の候補にもいれておいた方がよさそうだ。
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
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シリーズ「移動」のマーケティング
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