食品や電気・ガスなどの生活必需品の値上げが続いています。物価高騰は短期的には消費支出の減少につながります。中期的には購買力格差が拡大し、中間層を減少させ、低所得層(ロープライス層)の拡大を加速させ、さらに将来の需要を減少させていきます。一億総中流の時代は終わり、今後は所得階層別のアプローチが必要となっていきます。今回のコラムでは正規社員共働き世帯のパワーカップルが多く住んでいる豊洲エリアを取り上げました。
東京はエリアで大きく世帯収入が異なります。小学校の校区別にみた平均世帯年収は、豊洲北小学校周辺で829万円と、東京23区平均の795万円を上回っています(出典:住まいサーフィン)。富裕層が多く居住する麻布小学校周辺では1,163万円、単身層、ロープライス層が多く居住する板橋区大山駅周辺では、上位でも板橋第四小学校周辺の763万円と、エリアごとに購買力に違いがあります。
豊洲は2000年以降タワーマンションが数多く建設されています。江東区の人口統計によると、この15年間で人口と世帯数が約5.9倍になっているエリアです。国勢調査で見ても、豊洲2、3丁目のタワーマンション世帯の年代構成は全国平均と比べて30代、40代と10歳未満が多く、60代は非常に少なくなっています。比較的購買力のある「若年ファミリー層」が多い、高齢化していないエリアです。
豊洲のようなパワーカップルが居住するタワーマンションエリアを小売企業各社も注目しています。例えば、大丸松坂屋は大阪本町のタワーマンション契約者全体を対象にした外商サービスを開始しています。
豊洲は銀座からも近く、松屋や三越も外商先として注目しています。スーパーマーケットのライフは9月10日に豊洲店をリニューアルオープンしました。リニューアルのポイントは、「オーガニック・ローカル・ヘルシー・サステナビリティ」をコンセプトとしたPBの「BIO-RAL(ビオラル)」や、他店にはない専門店などの高品質な商品の取り扱いです。お酒では他の店舗と異なりクラフトビールや欧州ワインを充実させ、若年ファミリー層に向けた取り組みを強化しています。
東京でのエリアマーケティングはロープライス層や富裕層、パワーカップル層が多く居住するエリアを見極めて、所得階層別にアプローチすることが重要です。豊洲エリア(ららぽーと豊洲など)ではパワーカップルの生活スタイルを見ることができ、今後さらに成長を続けるエリアとして注目されています。
数年前から「パワーカップル」という言葉をよく耳にするようになった。つまり高収入の共働き夫婦のこと。個人年収700万円以上、世帯で1,400万以上の高収入カップルのことをそう呼ぶのだそうだ。彼らの生息地は当然のことながら高収入がのぞめる都会で、当然のことながらそんなに多くはない希少種になる。しかも、その実態は実にパワフルで強烈。金銭的に余裕のある消費者であるパワーカップルは、これからの日本経済のカギを握る存在ともいえる。
そんなパワーカップルたちが大好きな場所が東京湾岸地域。中央区や江東区エリアの街、月島、勝どき、有明、豊洲などなど。言うなればタワマン集合地帯だ。埋め立て地だし液状化問題を抱えているし・・・などといった不安より、窓から見える夜景やマンション内に完備されたジムやプールやパーティルームを自由に使える方が優先。そんな30~40代が、これらのタワーマンションに吸い寄せられるようにやってくるのだ。結果、タワマン建設は留まることなく進められ、湾岸エリアの人口もうなぎ上りに増えていくというわけだ。現在建設中のタワマン購入者の7~8割は高収入のパワーカップルだから、完成後の湾岸エリアはほとんどがパワーカップルの生息地ということになるわけだ。
その背景には職住近接や働く女性の増加、職場での女性の地位向上、また仕事と家庭の両立環境の整備、将来の資産価値への考慮などがあげられている。さらに若い世代ほど男女平等意識が強く、共働き世帯が当たり前になっていることなどもパワーカップル増殖の一因になっているように思う。また、男性の家事や育児などに対する意識改革により家庭における女性の負担が減少したこともパワーカップル誕生のきっかけといえるだろう。今でも家族のために仕方なく働いている女性は多いと思うが、一方で働くことを希望し選択した結果、高収入に結びついている女性が増えているのも事実。しかも、ファッション、グルメ、習い事、美容、推し事など女性の方が男性より消費意欲が旺盛だから、いずれにせよ両方がバリバリ働くダブルインカムは当然生活も豊かなのだ。そんな価値観が成立するパワーカップルは全体からすれば、まだ僅かだが、消費市場でみると間違いなく注目の存在といえるのである。
そこで今回は、パワーカップルの生活条件を満たす街として人気を集めている豊洲の魅力を探ってみることにする。
豊洲といってまず浮かぶのは、やっぱり豊洲市場かな。築地から移転する時は地下から水銀が出たとか土壌が悪いとか、こんな場所で生鮮品を扱ってもいいのか・・とか、連日メディアで叩かれてたよね。あの時は豊洲という街名を聞かない日はなかったのに、移転後はそんなクレームも問題点もどこへやら。ま、メディアも視聴者も喉元過ぎればってやつだからよくあることだけどね。そんなわけで、私は正直言って豊洲にはあまりいいイメージは持ってなかったんだけど、実際に街を歩いてみたら印象がガラリと変わった。豊洲埠頭にある海に面した「豊洲ぐるりパーク」を散歩したんだけど、なんかニューヨークのバッテリーパークのようでメチャクチャ気持ちよかったのだ。「豊洲ピット」や「豊洲市場」の裏側にこんなに素敵な遊歩道があったなんて。歩きながらふと、豊洲に住むのも悪くないな、なんて思ったりもした。
さらに調べるといろんな歴史を辿っていることもわかった。1988年(昭和63年)に地下鉄有楽町線が延伸した頃からオフィスビルや商業施設、マンションの建設ラッシュなどが始まり、豊洲の町並みは少しずつ変わりはじめていたのだそうだ。もともとは、関東大震災の瓦礫を埋め立てて作った街だし、最初は住宅エリアとはほど遠い工業地帯として発展したらしい。石川島播磨重工業(現IHI)の造船工場や東京ガス豊洲工場、東京電力新東京火力発電所などが作られ、そこで働く人々の社宅などが整備されていたのだそうだ。その後2002年に造船所が閉鎖されると、そのドック跡地を使った再開発プロジェクトが始動。2006年に誕生した「アーバンドック ららぽーと豊洲」などの大型複合商業施設や高層マンションが誕生したことで、それまで工業地帯だった豊洲は住居地帯への一歩を踏み出したのだという。私が豊洲の存在を知ったのは、「キッザニア」とかが話題になったこの辺りから。でも目ざといパワーカップルは、再開発プロジェクトが始動したあたりからすでに虎視眈々と夢のタワマン暮らしを狙っていたんだろうね。その後、新交通ゆりかもめの有明~豊洲間が開通し、2018年10月には、当初の予定より2年遅れたけどようやく豊洲市場がスタート。この頃から豊洲はタワマンが集まる住居地帯に新たな商業観光地帯という肩書も追加されてますますパワーアップしたわけだ。海を埋め立てて誕生し、工業地帯から住宅地帯へ、そして商業・観光地帯へと華麗なる変貌を遂げた豊洲。今後はそこを拠点とするパワーカップル増加に伴い、リッチなライフスタイルを提供するアーバンタウンへと進化していくのだろう。来るもの拒まず、変幻自在に進化する街という捉え方でみると、もしかしたら100年後とかは宇宙ステーションとかが出来てるかもね~なんておかしなことを思ったりもする。
余談だけど、世帯収入が1,400万円以上ってどんな感じか想像できる?なんでも国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、令和3年の平均年収は433万円で、年収1,000万円を超える人は全体のわずか4.6%しかいないらしい。ということは、パワーカップルはまだまだ稀少人種ということになる。でもね、湾岸エリアに建設中のタワマンの約3割はすでに売れちゃってるらしいし、7,8,000万かそれ以上はするタワマンに住める人が現実に一定数いるってことも事実。ただし、年収1,000万円以上でも貯蓄なし、投資なしの貧乏金持ちもいるらしいんだよね。そういう人たちにとってのタワマンは見栄の一つなんだろうけど、将来設計がないから購入後に後悔する人も少なくないみたい。まあ、気持ちもわからなくはないよね。20代や30代前半で1,000万以上稼いじゃったら、そりゃプライドも高くなる。自分の承認欲求を満たす為に見た目にもお金をかける。ハイブランドに身を包み、高級外車を乗り回し、一流レストランで食事をする。それが共働きになったらパワー倍増は否めない。毎日楽しく自己投資しちゃうよね。だけど、実はそこに大きな落とし穴がある。だって、タワマンや車のローンは容赦なく毎月やってくるし、なんならタワマンの場合、一般的なマンションなんて比じゃないほど管理費・修繕積立費も高い。魅力的な施設があるってことは、つまりはそういうこと。毎月の支払いに追われるだけのギリギリ生活だから貯蓄なんてとんでもない!という人がいても不思議じゃないのだ。
あとね、もっと怖いのがタワマンカースト。それがママ友や子供たちの関係にも響くから、ギリギリの生活なのに無理して体裁を保っている人もいるようだ。同じマンションに有名私立幼稚園や小学校をお受験する人がいようもんなら、負けちゃいられない!うちも同じか同等ランクに行かせなきゃ!となる。するとお受験に伴う塾や習い事に費やすお金は雪だるま式に増え、ひと月5万円以上なんて支出は当たり前になるんだそう。これに関しては、お金だけじゃなく、毎日のように習い事や塾に通わされる子供の方が被害者なんじゃないかなって思う。自分の意志で通うならまだしも、幼稚園お受験の場合はほぼ親の意志だからね。ドラマとかで観るようなカースト地獄にだけははまらないでもらいたいものだ。
そんな恐怖のタワマンカーストにも耐えうる強固な夫婦愛があれば、大概のことは乗り越えるかもしれないけど、家族の土台がグラグラだと「離婚」のリスクも高くなる。もしも夫婦でタワマンを購入した場合、離婚によりどちらかの名義にするのは厳しいし、住宅ローンの借り換えも難しいらしい。ペアローンはたくさん借り入れできるのが魅力だが、経費も2倍になる。離婚時の財産分与も面倒くさいので、メンタル面もやられるようだ。離婚後2年は財産分与の請求ができるからと、「とりあえず離婚」という道を選んでしまう人もいるようだが、出来れば離婚前にしっかりケジメをつけておいたほうがいいと思う。
こんなことを書いちゃうと、まるでタワマンに住むのは悪みたいにとらえられかねないけど、要するに大切なのは無理をしないこと。タワマン人気は相変わらずの勢いだし、豊洲をはじめ湾岸エリアはアクセスも眺望もいいし、街も便利に整備されている。前述したが、変化を拒まない豊洲という街は時代の流れに合わせながら今後ますます発展すると思う。だからこそ、そこに住む人たちは、お金にも貯蓄にも余裕のある本物のパワーカップルであって欲しいと切に思うのである。
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
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参照コンテンツ
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シリーズ「移動」のマーケティング
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