メーカーの主導権再確立への鍵は何か | |
新・流通戦略(差別的チャネル戦略) | |
-流通再編を活かした高収益チャネルシステムへの転換1 | |
代表執筆 舩木龍三 | |
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1.問題の所在 | |||||||||||||||||||
製造業(メーカー)の収益は、製造と販売に依存している。とくに、消費財メーカーでは「良い物を安く」の製造だけでなく、卸、小売の系列化を通じた販売によって高い収益性を維持してきた。その原理は、産業組織論で「二重マージン」と呼ばれる製造と流通の独占状態によるものであった。 しかし、小売段階の組織化と寡占化の進展によって、メーカーが持続的な収益性を維持することは極めて困難になっている。 メーカーは、従来の系列化した小売業との取引関係を維持しながら、広域化、大型化した組織小売業への積極的な取引拡大をすすめてきた。その結果、品揃えの総合性と価格競争力で優位に立つ組織小売業は、小売市場におけるシェアを拡大した。だがその一方で、メーカーの数量リベート制が取引数量の多い組織小売業の値引きの源泉になることによって、系列店での売上比重を落としながら組織小売業との取引でも高い収益を上げられないというジレンマに陥った。とくに、昨今の市場成長率の低下と製品競争の同質化がメーカーの収益性低下に拍車をかけている。また、収益性の低下は、研究開発力の低下と提供サービスの劣化を引き起こし、製品の同質化を招いた。さらに組織小売業の小売市場でのシェアが拡大し、自社の系列基盤を崩していくという悪循環に陥っていかざるを得なくなった。メーカーが、流通段階で自社製品の販売数量、価格、販売コストという戦略変数をコントロールできなくなった結果の所産である。 メーカーは、どうすれば高い収益性を回復し、消費者にとってより価値のある製品サービスを開発・製造し、提供することができるのであろうか。その原則を経済モデル分析によって探ってみたい。 その帰結は、今後の小売市場をどうみるか、そして自社の製品差別化能力によっても異なってくる。まず、小売市場のさらなる寡占化を前提にした場合、二つの選択肢がある。第一は、シェアを拡大する組織小売業との情報共有を通じて、自社製品の販売情報を正確に掌握し、在庫リスクの軽減とより良い製品開発に活かすことで小売との協同利潤を最大化する「情報共有戦略」である。この場合、利潤はバーゲニングパワーによって分配されることになる。第二は、特定市場における製品差別化戦略を強力に推進する「独占的市場形成戦略」である。次に、小売市場の多元化を前提にした場合には、主力チャネルと補助チャネルにセグメントし有効活用するという「差別的チャネル戦略」を採用することである。前者は流通主導に対する効率的な取引と製品差別化によるバーゲニングパワーへの対抗であり、後者(差別的チャネル戦略)はメーカー主導で小売業との協調を目指すものである。我々のスタンスは後者である。価格競争力を武器とする大手組織小売業に対抗し、非価格競争で成長する都心スーパー、コンビニエンスストア(CVS)、専門店が存在しており、小売市場が多元化する条件が整ってきているからである。 本稿では、メーカー主導の差別的チャネル戦略による収益性回復が可能かどうかを経済モデル分析によって明らかにする。はじめに、メーカーが販売を通じて高い収益性を維持してきたメカニズム、及び組織小売業との取引拡大によって収益性低下がなぜ起こったか、現在のジレンマの構造について確認する。そのうえで、差別的チャネル戦略の可能性を検証する。さらに、そこで得られた帰結をもとにチャネル戦略の新原則と実践的方法論を提案したい。 (2004.06)
本論文執筆は、当社代表松田久一による貴重な助言や協力のもとに行われました。ここに謝意を表します。
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【附 注】
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