本コンテンツは、2023年11月9日に開催したネクスト戦略ワークショップSession4の講演録です。
セッション4ではPosteriorマーケティングのご提案をさせていただきます。前セッションのPriorマーケティングでは、いかにブランドの価値を高め、事前決定度を高めるかをご説明しました。一方、今回の調査でわかったことは、事前決定に至る人は約半数であり、残りの約半数は店頭で説得していかなければならないということです。その意思決定にどう追い込んでいくかがPosteriorマーケティングです。
こちらは、事前・事後の統合マーケティングのフレームです。このセッションでご説明する事後のPosteriorマーケティングのポイントは三つです。
ひとつ目は、購入先探索とストアイメージについて、業態や個店の選択をどうするか。メーカーの視点では、どのような業態、流通と組んでいくかということになります。ふたつ目が店内接触、感情体験についてです。お客様がお店を選んで入った時、そこでどんな仕掛けをしていくか、お客様の感情がポイントになります。三つ目は、買い物満足を高めて購入点数を上げていく。いい買い物だったなという体験をしていただくことによって価値をどう伝えていくのかをご説明させていただきます。Posteriorマーケティングでは、最適な提供価値、提供する場所を決めること、感情経験がポイントです。
冒頭にお伝えした通り、お客様が購入決定をする時点をお店に来る前と後に分けると、だいたい半数に分かれます。まず、お店に来る前にその商品を買うことを決めていた人は、約46%、店頭で決定する人が残りの54%です。これがPriorとPosteriorの境目です。
今回は代表的なカテゴリーで調査をしており、右の図をご覧いただくとスマートフォン等の電子機器は事前決定率が非常に高いカテゴリーであることがわかります。一方、お菓子については店頭決定率のほうが高く、約6割です。つまり、自社の持つカテゴリーにより事前決定率が変わるので、どのようにアプローチするかを考えなければいけないということです。
では次に店頭での意思決定について、もう少し詳しくみていきます。ビールの事例では事前決定率が半々となり、49%と51%でした。事前決定の49%を細かくみると、いつも買っているブランドだからという「ブランド固定層」が19%です。残りの30%については「柔らかい固定層」と定義をしております。店頭に行ってからも、まだブランドスイッチの可能性がある層だと捉えることができます。
一方、店頭決定では、店頭で決めた理由が価格であるという「価格スイッチ層」が8%です。残りの43%ついては、店頭でのその他のさまざまな要因によって購入するブランド、商品を決めたという「店頭施策層」です。したがっていかに店頭で価値を伝えていくかがもっとも大切なことだと言えます。
それでは消費者の行動に即して順番にみていきます。まずどのように購入先の探索、業態の選択がおこなわれていくかについてです。
上の図の棒グラフは今回の消費社会白書の調査の中で1年内に利用した業態チャネルを聞いたものです。上位が食品中心スーパー、ドラッグストア、大型総合スーパー(GMS)、コンビニ、100円ショップとなっていました。
セッション2でご紹介した六つの価値ライフスタイルによっても使う業態が違うことが明らかになっています。上位五つの業態について、それぞれのライフスタイルで利用される業態の順位の違いがみてとれます。
今回はふたつのリーダー層をみていきます。「品格上質スタイル」は1番目が食品スーパーでした。一方「先進の感覚スタイル」は1位がGMSでした。誰を狙うかによって、その接点となる業態も変わるということです。したがって、メーカーにとってはどの業態と組むかというところもポイントになってきます。
次にそれぞれの個店の選択がどのようにおこなわれているか、ここではレトルトカレーとヘアドライヤーの事例での調査結果をご紹介します。レトルトカレーもヘアドライヤーも、なぜそこのお店で買ったのかという理由で一番多いのは「いつもそこで買っているから」で、なじみのお店だからという理由が一番多くなっています。安心したお店で買いたいという点がポイントです。他にも、「近い場所にあるから」「品揃えが良いから」というものも選択の理由になっています。
ただし、ここで注目していきたいのは、「お店の雰囲気がよいから」「清潔感のあるお店だから」「お店が広いから」なども選択のポイントになるということです。何となく雰囲気がいいとか、清潔感があるとか、品揃えが良いなど、お客様は直感的なイメージを持って個店を選択しています。したがって、自社のブランドの価値をどう伝えるかという点では、どのようなストアイメージを持ったお店と組むかということも非常に大切になってきます。
次に買い物における期待についてご説明させていただきます。買い物へのニーズを期待と充足でみるために、調査上で合成変数を算出し、得点をみました。「行きやすい場所にある」「手頃な価格の品揃えである」「特売が多い」などが上位にあがっています。ただ、下位のほうに、「わくわくする売り場である」「そこでしか買えない商品を数多く扱っている」「珍しい商品や新しい発見がある」などが出ています。
この得点を使って因子分析をしたところ、ふたつの軸が出てきました。そのひとつ目が「価格効率」、ふたつ目が「創造売場」です。
ここでのポイントは、「価格効率」と「創造売場」、ふたつの因子が買い物満足度に与える影響を重回帰分析したところ、それぞれ99%水準で有意であるということがわかったことです。
つまり「価格効率」を高めることだけでは買い物満足度は上がらないため、「創造売場」も高めていく。両方をやっていくことが買い物の満足度を相乗的に高めることになります。今、流通業では人手不足やコスト削減、それらを解決していくためにDX化などで効率化がどんどん進んでいますが、わくわく感を高めるための「創造売場」も非常に大切だということがわかりました。
次に、「価格効率」と「創造売場」の因子スコアを使って業態チャネルと価値ライフスタイルをマッピングしたものをご紹介させていただきます。
横軸に「創造売場」、縦軸に「価格効率」を取っています。
まずチャネルについては、バブル図で示しています。ここでポイントになるのが、ドラッグストアと食品中心スーパー、コンビニといった、左側の象限にあるものと、ディスカウントストア、GMSといった右の象限にあるもの、ふたつの固まりに分かれたということです。つまり、お客様からみたときに、食品スーパー、コンビニ、ドラッグストアの違いがほとんどなくなってきているのではないか、といえます。一方のディスカウントストアやGMSは「創造売場」のスコアも高く「価格効率」も高いため今、再評価をされている業態なのではないかということになります。GMSはお店も広く、店頭でさまざまな取り組みがされており、わくわく感を得られるようになってきているのではないかという解釈ができるかと思います。
もうひとつご紹介したいのが、六つの価値ライフスタイルの位置づけです。それぞれのタイプ別にどこに位置づけされているのか、ここでもふたつのリーダー層に着目していきたいと思います。「品格上質スタイル」「先進の感覚スタイル」ともに右上に位置しています。このリーダー層は「価格効率」と「創造売場」、それぞれを志向していると言えます。
また先ほどのふたつの因子、「価格効率」と「創造売場」、その規定要因から、選好ベクトルを引いたのが、上記図表内の矢印です。選好ベクトルをみても「価格効率」と「創造売場」の方向に向かっています。さらに、そこには消費リーダーが位置されています。この方向に向かって業態ごとにさまざまな工夫をしていかなければいけないということです。
メーカーが商品やブランドの価値を高めていくためには、最適な提供場所を選ぶことが重要です。配荷店率を最大化することによって接点を増やして売上を上げるという従来の営業戦略ではなく、価値をベースにするという考え方においては誰を狙うのか、ターゲットに対して、どこで接点を持つかを考えることが非常に大切になります。
ここからは業態、個店の選択後に、店内でどのようなアプローチをすればいいかというご説明です。ここでポイントになるのが気分を高めることです。弊社がとある食品スーパーでフェアの展開支援をした時の事例をご紹介します。この時、来店客に対しておこなった調査で、お店に来る前の気分と、お店に来た後フェアを通じてどんな気分になったかを聞きました。来店前に「楽しい気分」だった、と答えた人が51%だったのに対し、このフェアを通じて69%と、17%楽しい気分が高まったお客様を増やすことができました。
この要因はさまざまですが、用意した販促物に効果があったのではないかと捉えております。今回、フェアの開催を伝える通常POPと、商品の通常POPに加えて、商品の手書きイラストでリアルな品質が伝わるようなイラストPOPを用意し、お店に設置しました。そして、その販促物に対する好感度をみていくと、特にイラストPOPで半数の方が「好感をもった」と答えていました。
このように販促物に対する好感を持ってもらうことにより、フェアに立ち寄ろうという気持ちを醸成し、さらにイラストPOPによって商品を買おうという気持ちが醸成できたのではないか。その結果、買い物が楽しいという気持ちが高まったと考えられます。皆様もお店の中で店員さんが手書きでつくったものや自作したとわかるようなものは非常に楽しい気持ちになるかと思います。
これをうまくやっているのがドン・キホーテということで事例としてご紹介させていただきます。今、34期連続増収増益と非常に好調な企業です。ドン・キホーテの店づくりのポイントはふたつあります。まずひとつが「便利さ、安さ、楽しさの足し算でつくる売り場」というモットーで、特に楽しさを重視しています。それを実現するために、もうひとつ工夫をしているのが、アルバイトやパートにも権限を委譲するというところです。仕入れ、POP作成、値づけ、全てをパートの人たちも巻き込み、個店ごとの店づくりをしています。
ハロウィン直前の渋谷のMEGAドン・キホーテの事例をご紹介します。ドン・キホーテはどの店舗に行っても大量陳列が目に入ってくるかと思います。それにより、商品のよさを全面に出しているのがドン・キホーテの店づくりだと思います。例えば、話題のヘアケアがアイランド陳列されているような売り場、各お菓子メーカーがつくったハロウィン限定パッケージデザインのものを集めて、それを定番売り場で大量陳列していくことで商品のよさを見せながら、わくわく感を高めています。また、ドン・キホーテはエンドにテーマを持たせた商品を集めて、想起購買を促しています。
先ほどご説明した手書きPOPによる品質伝達ということで、各店舗の店員がつくり、自分の言葉で伝え、わくわく感を高めて購買につなげるということをやっています。アルバイトやパートに権限委譲するということは自分で仕入れた商品は責任を持って売り切らせようというプレッシャーにもなるかと思いますが、そういった仕組みがうまく作用して、各店舗での独自の工夫につながっているのではないでしょうか。
ここでは創造的購買についてご説明いたします。創造的購買とは、店内での快感情を高めることによって想起購買、関連購買を起こし、それによってお店のロイヤリティも高まっていくことです。想起購買とは買わなければいけなかった商品を店頭で思い出し買うこと。関連購買は、今買うと決めた商品に対して関連して必要だということを見いだして買う行動です。
先に説明したフェアでの効果検証をこのフレームに沿っておこないました。先ほどご紹介した通り、店頭に来て楽しい気分になった人が69%いましたが、楽しい気分になった人ほど想起購買、関連購買した点数が多くなっていました。結果的に購入金額が上がり、そのフェアを開催したお店へのロイヤリティも高まったことが検証できました。実際のアンケート調査での検証に加え、パス解析もおこない、これが正しいモデルだったということがわかりました。先ほどご紹介しました感情に訴えたイラストが上記図表の左下です。このようなものを通じて商品のリアルさ、品質のよさを伝えていったことによって、創造的購買による効果が検証できたのではないかと思います。店頭で価値を伝えるということは、メーカーだけではできませんし、小売業だけでもできません。したがって今後協働していくべき点は、双方が組んで店づくりをすることだと考えられます。
最後に、品質をお店でどう伝えていくのかというお話です。ブランドは品質を体現するものですが、消費者にはその商品ブランドの品質がわからないということが前提にあります。
ビールの事例で、品質が判断できるかを聞いたところ、品質がわかると答えた人は50%で、残り半数はわからないと回答しています。売り手であるメーカーや流通業は品質がわかりますが、買い手であるお客様側にはわからないということです。
品質をどうやって伝えていくか。お客様は、売り手が出す様々なシグナルで品質判断をしています。例えば、オーディオ機器は黒い方がいい、電気カミソリは低音の方がいいなどのイメージがあると思いますが、そうしたシグナルを判断しながら購買行動をおこなっています。企業のマーケティングコスト評価について、ビールの事例で「コストをかけていると思う」「購入の決め手になった」というものをそれぞれみると、「コストをかけていると思う」では「テレビCMなどの宣伝広告」が1番、2番目が「商品そのものがよいこと」となりました。「購入の決め手になった」についてもそのふたつが上位であり、重要であることがわかります。ただ、「商品そのものがよいこと」は、パッケージのデザインやコピーのような宣伝広告も含めて商品そのものということなので、このふたつは重なっている点があると言えます。
ただ宣伝広告すればいいということではなく、いかに店頭で商品のよさを伝えるか、メーカー側の本気度や自信をいかにお客様に伝えるかが大事になってきます。
再度ユニクロの事例をご紹介させていただきます。これまで、Priorマーケティング、Posteriorマーケティングについてポイントをいくつかご紹介してきました。このふたつを統合させていくことが重要で、それがうまいのがユニクロなのではないかと思います。
セッション2でご説明したように、ユニクロのテレビCMは生活シーンに重点を置きながら商品の機能も伝えるという構成になっていました。
メリノウールの事例を使い、テレビCMで「時間充実価値」を訴求した後に、店内でどのような取り組みをしているかをご紹介いたします。ユニクロも今はECに注力しているものの、店頭は情報発信の場として重要であると、明確に言っています。
ユニクロの店舗は圧倒的な陳列量でカラーバリエーション、サイズバリエーションの多さをみせています。実際に銀座のグローバル旗艦店を見に行くと、店内にメリノウールが大量陳列されていました。そこに大きなPOPがあり、機能による価値メッセージとして「繊細繊維が生む上質な艶」と伝えています。
見本も必ず置いてあります。さらに、同じ商品を店内の複数ヶ所に陳列する多箇所陳列をしています。何回も見て、触って、納得して買ってもらう。それがユニクロの店づくりの特徴です。そしてCMとの連動もしています。起用したタレントのボードを置くことによって「時間充実価値」をもう一度思い起こさせています。加えて商品の横にその商品について説明する小さなPOPが多く置いてあります。ここで価値に繋がる機能を詳細に説明することで買っていただく、という構造です。ユニクロは、これからは情報価値を一緒に売っていくということに重きを置いており、価値を売るということをうまく統合させられている事例としてご紹介させていただきました。
ここまで「最適提供価値」と「感情経験価値」のふたつについてご説明いたしました。今、値上げラッシュや流通の寡占化があり、小売業とメーカーの間では、対立が起きてしまっている状況と言えます。ただし、この値上げの局面では価値を高めていかないと乗り切れません。そのためにはPriorとPosteriorが分断されてしまっていては駄目で、それを統合させていくことが重要です。したがって、双方が協力していく必要があるということになります。
ユニクロの事例でみたように、メーカーと小売業が共通目標を持って、価値を店頭で伝えていくことが、これからのマーケティングには必要なのではないかと思います。