まず、ビジネスモデルそのものを市場プラットフォームにしてしまった事例ということで、アマゾン、森ビル、JR東日本、の3社をご紹介します。
アマゾンが実際にどのようなビジネスをしているのかというと、私たちがよく知っているのは、書籍の通販です。作家やライター、出版社がコンテンツをつくり、印刷会社や製本工場で本にして、書籍の卸をおこない、アマゾンがお客さんからの決済に応じて配送するという流れです。アマゾンには16カテゴリーにわたる商品があって、現在ではおよそ5,000万アイテムを扱っています。
それからアマゾンは電子書籍販売も行っています。話題のキンドルは、端末が7,980円、日本でのコンテンツ販売は5万アイテムほどでスタートするようです。端末の初回出荷分は早速売り切れだそうですが、この端末の規格も書籍の電子化フォーマットも、基本的には全部アマゾンが考えています。そして、コンテンツを端末で見られるような仕組みを通じて配送し、利益を得ているわけです。
このアマゾンの通販事業・電子書籍販売事業での売上は、全体の約6割だそうで、残り4割についてはまた別の顔があります。それが、第三者の取引を仲介するビジネスの「マーケットプレイス」です。古本や中古CD・DVDなど、誰かが出品しているものを買うシステムで、マーケットプレイス上で出品者と消費者とをマッチングして決済するビジネスです。アマゾンは大きな倉庫を持っていて、配送も自前でやるという話は有名ですが、倉庫も配送システムも使わずに、出品者と消費者をつなげるだけのビジネスにして儲けています。
マーケットプレイスのビジネスは、配送コストがかからないので、高い収益率で回っているはずです。アマゾンは、マーケットプレイス事業を2017年までに全体の55%を超えるようなボリュームにしていきたいという計画を立てています。従来は小売りモデルだった会社が、市場プラットフォームを取り入れることによって大きな収益を得て、成長をしている例です。
では、マーケットプレイスとはどのような仕組みになっているのでしょうか。
毎月アマゾンにアクセスする人は、日本だけでも月間延べ4,300万人ほどだそうです。すると、「それだけ利用者がいれば、自分の家で眠っている本も誰かが買ってくれるだろう」ということで、どんどん出品者が出品してきます。本やDVDや電化製品など、出店数が増えれば、「アマゾンに行けば、ブックオフになかった商品があるかもしれない」と思う人も増え、どんどん消費者も集まってくるようになります。出品者が増えるほど消費者も集まり、消費者が増えるほど出品者も集まるという、外部性が非常に強く働くシステムを持っているのです。
実際にマーケットプレイスが持っている機能は「マッチング」と「決済システム」です。家に眠る本を買ってくれる人を探すのはとても大変ですが、この仕組みに入ることで、アマゾンがお客さんを探してくれるわけです。本を売りたい人のサーチコストを削減してくれるのです。もう一方、消費者側としては、出品者がたくさんいるから、一人一人と決済するとなれば手間が増えます。これを、アマゾンを通せば決済が1回で済むことになるのです。このように、マーケットプレイスでは、出品者のサーチコストを下げ、消費者の重複コストを下げる機能を持っています。
図表1.【アマゾン】マーケットプレイスの プラットフォーム |
この仕組みがなぜ成功したのかを考えていくと、三つのことが考えられます。ひとつ目は、やはり、小売モデルでたくさんの顧客基盤を作ったことが大きいです。4,300万もの利用者は大きな強みです。この顧客基盤をもとに、市場プラットフォームの機会を見つけ、ビジネスをつくり出したこと、そして、うまくネットワーク外部性を取り込んだことが成功のポイントだと思います。ふたつ目としては、ビジネスを実現するために、出品者と消費者をつなぐ機能、特に取引コストを劇的に減らす機能を開発したことです。最後に三つ目として、マーケットプレイスでの品揃えがロングテールになっていることです。書籍をはじめ、家電や文房具、食料品に至るまで17カテゴリーと多様ですし、書籍だけでも60万点という膨大な品揃えが強みです。
図表2.【アマゾン】成功のポイントと課題 |
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