長引くコロナ禍で、2022年10月、水際対策が大幅に緩和された。さらに3月13日以降はマスクの着用が原則個人の判断に委ねられることとなるほか、5月8日をもってのコロナの5類移行が決定している。ようやく日本も脱コロナへ一歩前進したかたちだ。
明るい兆しは統計データにも表れている。日本政府観光局(JNTO)の報道発表によると、2022年12月の訪日外客数は137万人と11月の約1.5倍、大幅緩和前の9月比では約6.6倍に増加。2019年同月比でも54.2%減と、9月までの9割減から急速に立ち直りつつある。秋以降、各地で外国人観光客を見かける機会が増えたという人も少なくないはずだ。
政府や自治体、事業者もインバウンド復活に向けた取り組みを強化している。JNTOは9月、訪日プロモーションの本格再開を発表。10月に開催した欧米の高付加価値旅行市場向けの商談会「Japan Luxury Showcase」では、オンライン商談に17市場48人、ファムトリップ(視察ツアー)には16市場40人が参加したという(「トラベルボイス」 2022年10月26日付)。
一足先に本格回復をみせているのが、規制緩和も早かった欧州だ。国連世界観光機関(UNWTO)の「TOURISM Recovery Tracker」によると、2022年12月1日付けの欧州への訪問観光客数は2019年同日比で86.7%にまで戻している。ドル高・ユーロ安も手伝い、今回のレポートからはコロナ前とほぼ変わらない活況が伝わってきた。
ワクチン接種でも先行した欧州は現在、コロナとの共生という新たなステージにシフトしている。今後日本でも5類移行や脱マスクが進み欧州並の規制水準になれば、インバウンドや国内外の旅行客の増加、それに伴う日本文化やブランドの再発見、外食やレジャーの復活、ノーマスクによる化粧品需要など、様々な産業への波及が予想される。コロナ禍で低迷してきた消費の再浮上が、企業にとっても大きなビジネスチャンスになってくるだろう。
今回は、日常を取り戻しつつある欧州4ヶ国からのレポートをお届けする。
昨年2022年9月7日から日本でも3回以上のワクチン接種者に限り、コロナの帰国前のPCR検査が不要になりました。ヨーロッパをはじめほとんどの国では、すでに入国制限は解除されています。しかし、ようやく入国制限が解除になった矢先、今度は激しい円安や燃料サーチャージの高騰に襲われ、結果そう容易く海外旅行できない現状が続いています(年末年始は円安も少し解消され、多少状況はかわりましたが)。さらに、日本帰国(入国)前に義務付けされている渡航国の出国時と日本の入国時に提示しなければならない日本政府デジタル庁によるワクチン証明書の登録も、結構面倒だったりするのです。若者やデジタル活用者にとっては問題ありませんが、そうでない人にとっては海外旅行を断念する人もいるであろう難題だと思います。
そこで今回は、昨年11月、実際にヨーロッパ旅行をした私の経験談を交えながら、出入国時の様子や各国の現状などを様々な視点から考察しようと思います。
2022年11月17日、エミレーツ航空を使い成田空港からドバイ経由でベルギー・ブリュッセルへ。ドバイもブリュッセルも入国制限はないので、出国時はコロナ禍前となんら変わらず。円安のため航空チケット代は高めだったのでしょうが、なにしろ24年ぶりのヨーロッパ旅行だったので比較する知識も経験もなく。すんなり受け止められたのは幸いだったのかもしれません。出発時間が遅かったせいもあると思いますが、開いている免税店や飲食店が少ない成田空港は静寂のひとこと。トランジットで降りたドバイの金色に輝く煌びやかさに思わず目を奪われてしまいました。いきなりコロナに対する考え方の違いや景気の差を見せつけられた感じ。軽いカルチャーショックを受けながらブリュッセルへと向かいました。ブリュッセルも入国制限がないので入国審査はすんなりパス。タクシー乗り場からタクシーに乗り友人宅へ向かう途中、ふとドライバーがこんなことを言ってきました。「マスクは取った方がいいよ。マスクをしていると病気だと思われるよ」と。ところ変われば、です。確かに飛行機内でもドバイとブリュッセルの空港内でも誰一人としてマスクをしていない。稀にしている人はかなりの年配者のみ。よくもタクシーに乗るまで何の疑いもなくマスクをしていたものだ、と気づかないうちにマスク依存している自分に呆れました。
11月21日からはフランス・ロワール地方とシャンパーニュ地方のワイナリー見学のためパリへ。クリスマスシーズンのパリはシャンゼリゼ通りもエッフェル塔もどこもかしこもイルミネーションに包まれキッラキラ。多くの観光客が寒い夜空の下、観光を楽しんでいました。最近のパリは治安がよくなく、スリが多発しているから気を付けるようにと方々から言われたので、それなりに覚悟して行ったんですが、案ずるまでもなく。持っているスマホをもぎ取られるよ、とか、ぶつかってきて無理矢理バッグを取られるよ、とか。そんな恐ろしいことを言われたのに、グーグルで経路を見ながらスマホ頼りに歩いていても、重い荷物を両手に抱えていても被害に合うことなく楽しくパリ観光を終えることが出来ました。そして翌日は早朝からロワール地方へ。ワイナリーの詳細は別の回にまとめたので、そちらも是非ご覧ください。
11月25日、ブリュッセルの友人宅から電車でアントワープへ。アントワープには、マルタン・マルジェラやドリス・ヴァン・ノッテンなどといった数多のトップデザイナーを輩出しているアントワープ王立芸術アカデミーがあります。世界で活躍する伝説の6人「アントワープ6」はあまりにも有名ですが、実は世界中から注目されている日本人卒業生がいます。同校を首席で卒業し、近年の「お洒落オタク」ムーブメントの火付け役となったミキオサカベ。グラデーションニットを代名詞とするアキラナカ。ミキオサカベに続く2年連続の日本人主席卒業で話題を呼んだタロウホリウチ。日本人最年少でイノベーション賞を受賞、レディガガなどの衣装デザインもするユイマナカザト。やはり首席で卒業し、アジアの魅力を提案するヒデキセオ。TAKEO KIKUCHIのデザインディレクターをするヒデキフクゾノら。彼らも「アントワープ6」を目指し、石畳が続くアントワープの街で様々な感情に蠢きながら、最高に刺激的な青春時代を過ごしたのでしょう。また、ブリュッセルでは「王立美術館」「マグリット美術館」にも行きましたが、美術館内すべてが写真動画撮影OKなうえ、監視員もほとんどいない気楽な空間に至極感動。そんな芸術に対するカジュアルさや間口の広さも芸術家を育てるうえでは大切な要素なのだと思いました。
そして、アントワープの「聖母大聖堂」では厳かなルーベンスの作品に浸りながら、壁一面に描かれた「マリア昇天」に感動。これは「フランダースの犬」の最終話でネロ少年がパトラッシュとともに天に召された時に描かれていた作品です。そのおかげで、ここは日本人に大人気の観光スポットとしても知られています。
さらに、ベルギーといえば、ゴディバに代表されるチョコレート、ベルギービール、ムール貝、ワッフルなどグルメ大国でもあるので、そんな話もひとつしておきましょう。マクドナルドのポテトのような細くて外がカリっとしたフレンチフライは、実はベルギー発祥なのだそうです。第一次世界大戦時に米兵がもらったフライドポテトが美味しかったらしく、それをくれた軍人を勝手にフランス人だと思い込み、帰国後「フレンチフライ」と名付けて世に出したのが始まりだそうです。ベルギーでの名前は「フリッツ」。街のあちこちに専門店があり、どこも長蛇の列です。また、アントワープに第一号店を構える「麵処 匠」は、今やヨーロッパ各地に支店をもつ人気店。キャッチフレーズは「ガンガン炊いてます!」。スープのことだと思いますが、欧米人には多彩な焼きそばメニューの方が受けているようです。「麺処 匠」の勢力はガンガン拡大中なので今後に注目です。
11月26日はオランダ・アムステルダムへ。レッドライトというエリアは、いわゆる赤線地区。「飾り窓」と呼ばれる「売春博物館」や「大麻博物館」などがあり、その一帯に入るや否や独特の匂いに包まれます。ご存じの通り、オランダは売春も大麻も合法なので、その外観も周りに建ち並ぶ可愛らしい建物に違和感なく溶け込んでいるのがユニークです。他にも「アンネフランクリンの家」や「ゴッホ美術館」「ハイネケン・エクスペアリンス」などたくさんの観光スポットがありますが、いずれも人気すぎるので事前予約は必至。24年前はビアホールでビール飲み放題だったハイネケンが、今はクラブ仕様になり1人2杯までしか飲めなくなっていたのがちょっぴり残念でした。アムステルダムというと、真っ先にチューリップ、風車、運河といったカワイイイメージが浮かびますが、本当の姿はちっちゃくて可愛い街並みと、合法にすることで犯罪を抑止したり、LGBTQに明るかったりする器の広さが共存する最先端で自由な街なのだという印象を受けました。
12月1日からはロンドンへ。ロンドンには1年半ほど住んでいたこともあり24年ぶりとはいえ他の街よりは気楽に過ごせました。ただ、その間にイギリス以外の国がEU加盟国になったので、フランス、ベルギー、オランダの行き来が楽だった分、イギリスへの入国審査がやけに面倒に感じたのも事実です。ブリュッセルで入国審査を受け、ユーロスターでロンドンへ。キングスクロス駅から地下鉄でゾーン3の友人宅へ向かったのですが、そこで早速失敗。ロンドンの地下鉄はほぼ階段なのです。しかも狭い。3週間分の荷物が入った大きなトランクを抱えての階段はまさに地獄そのもの。乗り換え駅で優しい男性に助けてもらったのが唯一の救いでした。とはいえ、車内アナウンスや路線も乗り換えもシンプルでわかりやすい。東京の地下鉄はロンドンのそれを真似て作ったというのも頷けました。地下鉄といえば、今回行った国はすべてチャージ制の交通系カードを使用。ロンドンの自販機は日本語対応もしていたので助かりました。しかも、駅構内のトイレも無料で使用できるのです。ロンドン以外はすべて有料(70円くらい)ですが、どれも対価に値しないものばかり。東京のトイレが世界一キレイで素晴らしいということを心から実感しました。
ロンドンでは「ユニクロ」「無印」といった日本発のブランドが人気ですが、際立って目に付くのがイギリス発の「SUPER DRY(極度乾燥しなさい)」という謎のブランド。実は日本以外の世界46か国で展開されている超人気高級アパレルブランドなのです。ブランド名の「スーパードライ」は、ブランド創始者が日本旅行の際に飲んだ「アサヒスーパードライ」からとったそうなので、「極度乾燥しなさい」はいわば直訳。そのため、商標登録の問題があり、日本での販売は禁止になっているそう。だから世界中で流行っているのに日本では知られていないというわけです。ラインナップはアバクロっぽいカジュアル路線。Tシャツ、ソックス、帽子などに「自由生活」「招き猫」などの文字や意味不明の日本語がプリントされているのが特徴です。日本には支店はありませんがECで購入可能なので気になる方は是非。
今回の旅の後半はクリスマスシーズンだったこともあり、イルミネーションが輝き、クリスマスマーケットが建ち並ぶというベストシーズンのヨーロッパを巡ることが出来ました。コロナ禍など微塵も感じないほど街中たくさんの人で賑わっていたのが印象的でした。もちろんマスクなし。飲んで食べて騒いで。コロナ禍という状況は日本と変わらないのに考え方の違いだけで、こうも環境が変わるのだということを目の当たりにした道中でした。
この年末年始は、日本でもインバウンドや海外への日本人旅行者が急増しました。もうじきコロナが5類に引き下げられる案もでていることから、日本がいろんな意味で欧州並みになる日もそう遠くないような気がします。
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
- 入国制限解除後の欧州の今と観光ビジネス考察(2023年)
- フランス・ロワール地方最大のワイナリー「ラドゥセット」(2023年)
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参照コンテンツ
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- MNEXT 2022年の消費の読み方-価値拡張マーケティング(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ 市場脱皮期の富裕層開拓マーケティング―価格差別化戦略(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ 20年後の東京をどうするか?―新しい消費文化の形成(2017年)
- 戦略ケース 都市再生法によって加速する 東京発マーケティング革新(2002年)
- 戦略ケース 百貨店の明暗を分けるブランド消費-百貨店の復活は本物か?(2001年)
シリーズ「移動」のマーケティング
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