新年早々、1都3県に緊急事態宣言が発令され、コロナで明けた2021年。飲食店やデパートなどの時短営業を機に再びステイホーム体制に入っている方も多いんじゃないかと思います。しかし、守るだけでは生活が困窮していくだけ。経済を動かさなければ、国からの保障すら期待できなくなると思うんです。
観光大国のハワイは、2020年11月から入国の際の自己隔離をやめました。陰性証明書などの提示は必要ですが、10日間隔離されずに入国できるのは観光客にとっては非常に有難いこと。日本も守りに徹するだけでなく、もっと知恵を出し合い、ある程度、攻めの姿勢をとっていくことも大切だと思うのです。
さて、前回に続きご紹介する池袋ですが、その街づくりがまるでコロナ禍を予想していたかのような屋外を活かしたものになっているので、今回はそんな池袋の公園を中心とした再開発にスポットをあてた、安心安全な街づくりに注目したいと思います。
豊島区は、「国際アート・カルチャー都市構想実現戦略」の一環として、東京オリンピック・パラリンピックまでの完成を目指し、「公園が街を変える!」というスローガンのもと、池袋を中心とした四つの公園の整備を行ってきました。基本コンセプトは「まち全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市」。そして、2016年から2020年にかけ、四つの公園を核としたまちづくりが完成したのです。その結果、池袋はわずか4年で生まれ変わりました。かつて「消滅可能性都市」に選ばれてしまったという汚名を返上するべく、緑豊かな自然という付加価値を伴った国際アート・カルチャー都市へと、見事な復活を遂げたのです。
手始めに着手したのが、豊島区役所の移転改築に伴い2016年にリニューアルオープンした「南池袋公園」。サンシャインの高層ビルを臨む景色は、まるでニューヨークのセントラルパークのよう。まさに都心のオアシスそのものです。コンセプトは「都市のリビング」。週末になると、広々とした芝生広場にシートを敷き、のんびり寛ぐファミリーやカップルも数多。園内にはBBQができるカフェレストランも併設されているので、昼間からビール片手に野外グルメを楽しむ光景もよく見かけます。コロナ禍の今、野外で飲食が楽しめる場所はかなり高評価なオススメスポットだと思います。
2019年10月にオープンした「中池袋公園」は、「乙女ロード」を皮切りに、今やすっかりアニメの聖地となった池袋を世界に発信する拠点として位置づけられています。ここでは、定期的にアニメやコスプレのイベントを開催。オープン直後の10月26日・27日には、「池袋ハロウィンコスプレフェス2019」のメイン会場として使われました。公園のすぐ近くにアニメグッズ専門店「アニメイト池袋本店」があるという好立地も手伝い、「中池袋公園」はオープン当初から世界中のアニメファンにも注目されています。また、公園内に完備されたカフェも株式会社アニメイトカフェが運営。「アニメイトカフェスタンドHareza池袋」として人気を集めています。コロナ禍が落ち着き、再び世界中からアニメファンやコスプレイヤーたちがやってくれば、「中池袋公園」は間違いなく日本の激熱スポットとして注目されることでしょう。
公園オープンからまもなくの11月1日には、公園を抱えるように劇場をともなった複合施設「Hareza池袋(ハレザ池袋)」が誕生。「ハレザタワー」という名称のオフィス棟には、7階から32階にオフィス、2階から6階にTOHOシネマズが運営する映画館が入る高層ビルが完成しました。映画館の座席数は10スクリーンに1700席。映画のほか、コンサートや演劇、スポーツのビューイングも行われます。
ホール棟は、2019年3月に「東京建物」がネーミングライツ権を取得。「東京建物ブリリアホール」という名称になり、従来の公会堂や集会場などのほか、新たに三つの劇場が入る「新ホール棟」が誕生。そのひとつ、「東京建物ブリリアホール(豊島区立芸術文化劇場)」は、文化芸術活動の拠点として、ミュージカル、宝塚歌劇、歌舞伎、バレエ、オペラ、伝統芸能などの公演を想定。豊島区民の成人式や学校行事にも活用する予定です。
また、1階のライブ劇場「ハレブタイ」では、音楽ライブやVチューバ―によるライブ、CGライブ、ゲーム実況などを開催。アニメやサブカルチャーが楽しめる新感覚のライブ劇場として注目されています。同じく1階には、ライブ配信などの配信を中心に行うサテライトスタジオ「ハレスタ」を開設。今後は、劇場と中池袋公園の連携イベントなども予定されているようです。
同じく2019年11月、池袋西口にある「東京芸術劇場」と一体的にリニューアルオープンしたのが「池袋西口公園野外劇場グローバルリングシアター」。縦3m×横11mの大型ビジョンや8chスピーカーを完備した常設ステージと仮設ステージの組み合わせにより、主にダンスや演劇などのイベントやパブリックビューイングとして展開。さらには、フルオーケストラによるクラシックコンサートまで、広く対応できる劇場空間として生まれ変わりました。劇場を円形に囲むように設置された5本のリングは、「グローバルリング」と名付けられ、LEDライトと広場中央の噴水が連動するコンテンツが癒し空間を演出。池袋ウエストゲートは、令和になってようやくオシャレでアカデミックな劇場タウンに変身することができたのです。
そして、最も新しい四つ目の公園が、2020年7月に東池袋の造幣局跡地にできた新公園「としまみどりの防災公園(通称イケ・サンパーク)」。約3万2,000平米という豊島区最大の面積に、約1万7,000平米の防災公園と約1万5,000平米の市街地に再生。大規模災害が起きた場合には、一時待機場所として2,500人が収容可能だといいます。園内には、「救援センター開設キット」を設置。災害時に備え、備蓄倉庫、消火用水確保のための深井戸、非常用トイレなどを整備。ヘリポート、物資集積拠点としても機能します。さらに、帰宅困難者用の備蓄物資も完備されているので、池袋は単に遊びに行く街から「安心して遊びに行ける街」へと進化したのです。
では、「イケ・サンパーク」の公園内をご紹介しましょう。「中央の原っぱ広場」には、芝生で覆われた広大な原っぱの中に、「こもれびの森」「もり土ステージ」、遊具が点在する「プレイグラウンド」、カフェを併設した「コミュニティガーデン」など様々な施設が点在。サンシャインシティの裏にあるという立地も手伝い、週末には自転車やスケボーなどの練習をする父子やのびのび遊ぶファミリーの姿などを多く見かけます。休日は、家族でサンシャインに出かけ、帰りは「イケ・サンパーク」で日暮れまでたっぷり遊ぶ。そんな、シンプルだけど中身の濃い週末ライフスタイルに憧れるファミリーが増えているようで、池袋には今、続々と新たなニューファミリーが移り住み始めているのです。
また、公園内に植えられた桜やイチョウ、火災の延焼を防ぐシラカシなどをはじめとした多くの樹木も、都心で自然に触れられる大きな魅力になっています。入口はノース、イースト、サウス、ウエストの4か所。トイレも公園内のトイレとは思えないほどキレイで清潔。そういったニューノーマルの時代における大事なポイントもクリアしています。
さらに、園内のカフェでは「EAT GOOD PLACE」=「食べることから生まれる良いサイクル」をテーマに、朝食から始まる街の憩いの場を提供。また、花や野菜を育てることができる「コミュニティガーデン」や、「KOTO-PORT」と名付けた小売店舗も展開。都市での新たな食文化を提案する場としても今後、注目されそうです。
ということで、今回も2回に分け池袋の再開発を深掘りしました。以前ご紹介した渋谷の再開発は、広範囲に高層ビルが林立し、まるで近未来都市を先取りしているかのようでしたが、池袋の再開発は、そこに人々の暮らしというテーマが加わったように思います。それまでのダメージを払拭するかのように、公園という爽やかな場所を利用した住民に寄り添った再開発。それこそが、今後の街づくりの指針になるのかもしれません。
再開発には反対の声があるのも事実ですが、完成した街を実際に歩いてみると、むやみやたらに再開発してるわけじゃないんだな・・・ということを肌で感じます。街は時代とともに変化していくもの。近年の再開発は、しっかり街の特性を活かし、良いものは残しつつ合理的にするという、実にスマートな街づくりを実践しているように思います。コロナ禍ではありますが、家に籠ってばかりいないで、天気のいい日は公園にでも出かけてみましょうよ。そして、未来を見据えた街づくりで生まれ変わった街をゆっくり散策してみてはいかがでしょう。
前編(ダークでカオスな街から緑豊かな「劇場都市」に変貌を遂げた池袋) <<
今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
連載:気になるあの街に行ってみた!
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参照コンテンツ
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- オリジナルレポート コロナ下とコロナ後の消費の展望(2021年)
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シリーズ「移動」のマーケティング
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- 世代交代で変わる鉄道と駅の役割
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